大手企業の依頼
こんな小さな店でありますが、ここにしか無い技術というものがございます。
どんなに機械化が進んでも、やはり人の手、更にいうなら自然の力には敵わない部分が出てくるもの。自然を無視した技術と、自然と手を組んだ技術では大きな差が生じてくるのでございます。
タイヤの音を響かせながら、店の前に大きな車が到着しました。車の横には禍々しい髑髏の模様が描かれております。こちらの方は武器製造の大手、「髑髏屋」です。何ともひねりのない名前でございます。到着するやいなや、ずかずかと店の中に入ってきました。
「爺さん、今回も仕事持ってきたやったぜ」
そう言うと、男は台車に乗せた大きな塊を出してきました。塊を覆う麻袋には、沢山の札が張られております。明らかに現世に存在しうる物ではありません。
「また、物騒な物を持ってきましたな。下処理は済んでおるんじゃろ?」
このような形状で保管しなければならない物はただ一つしかありません。喝霊石でございます。
「おう。四十九日間、四六時中お経を浴びせたからな。中のヤツはもうカピカピだろうよ。」
喝霊石とは、いわば霊魂の化石でございます。霊魂を石の中に封じ込め、余分な思念を取り除き、純度を高くした霊魂であります。対魔物の武器を作るには必要不可欠。武器製造企業にとって、最も大切な材料でございます。しかし、武器に加工するには精製を行わなければいけません。
「今回は、何を討伐されるのですか?」
喝霊石を含んだ武器で討伐する魔物というのは、そこら辺の魔物とは格が違うものでございます。昔は、喝霊石が必要になった際、各々の村から人柱として犠牲を払い、精製しておりました。最近では、借金のカタとして、自身の霊魂を担保にする者、人身売買で売りに出された者から霊魂を抜くことが主流となっております。
「俺にはわからん。せいぜいまわってくるのは発注書ぐらいだかんな。とりあえずちゃちゃっと済ませてよ。」
男は店のソファーにドカッと座り、煙草に火をつけました。
さて、喝霊石の精製は難しいものでございます。石ごとに沸点が違う為、溶け出す温度を少しずつ調整しなければなりません。元となる霊魂が十人十色なのですから石それぞれに個性があるのは仕方のない事でございます。
炉の温度をどんどん上げていきますと、いつしか炎は目では見えないようになります。それを超えますと、薄く靄がかかったようになり、最終的には白。純白の炎になるのであります。札の張られた麻袋を開け炉の中に投入したらば、今度は一気に温度を下げます。冷たい炎というものもあるのです。純白の炎が薄く青みがかった頃合いに、再度最高温まで一気に急加熱させます。この状態から少しずつ温度を下げ、溶け出す温度を探っていくのであります。
溶けた霊魂が流れ出てきましたら、すぐさま銀粉と混ぜ、折っては伸ばしを四十九回繰り返します。その後、聖水で冷やし精製は完了でございます。
「終わりましたよ。」
私は、絹の布に包んだ喝霊石を手に店に戻ってきました。
「おっ。今回は速いね。ほんじゃ~これ受領書ね。代金は月末に振り込まれますから~。」
喝霊石を受け取った男は、そそくさと車に乗り込み、帰っていきました。
机の上の灰皿は山の様に吸い殻が積まれ、煙草の空き箱が三箱も散乱しておりました。