オッドアイの少年
ー冬の空はどんよりと曇っていて、まるで自分の心を表しているようだった。
駅のホームでただ1人、彼女は電車を待っていた。雪が降っていないとはいえ、今は12月の夕方だ。上着も着ずにマフラーなどもしていない。見たところ長袖1枚の姿で、髪も鎖骨のあたりまでだ。きっと寒いであろう。だが彼女は寒がる様子もなく、ただただその場で電車を待ち続けている。表情にも特に変化はなく、一点を見つめているだけだった。
「何か見えるの?」
「え?」
突然の声に驚きを隠せない彼女は咄嗟的に後ろを振り向いた。そこには、9歳くらいの少年がいた。赤と青のオッドアイ。カラーコンタクトをしているような感じではない。
彼女は全てを見透かしたようなその瞳から目をそらせずにいた。
「ねぇ、お姉ちゃん、ここから何か見えるの?」
再び少年は問う。だが、彼女は答えられない。
少年の言う『なにか』を見ていたのは事実だ。だがどう説明すれば良いのだろうか。自分にもよくわからないことを他人に説明するのはとても難しい。彼女は黙りこくってしまった。
何分経過しただろうか。お互いに向かい合いながら黙っていると、やがて少年がとても小さな、たった10センチ程度の距離で向かい合っている彼女が耳を凝らしてやっと聞こえるような声で呟いた。
「大変だね。君……。」
大変……。少年がなにを見てそう思ったのには彼女にはわからない。「いったい何が?」と聞こうとした刹那、背後から大きな音。驚いて振り向けば、待っていた電車が着いていた。だが直様彼女は少年がいた方を向く。……が、そのときには少年の姿はなかった。足音もなにもしなかった。その場からふっといなくなったように感じた。まるで神隠しのようなーー。