月夜は2人で
「ふっざけるなー!!!」
布団を跳ね上げミルフェは叫んだ。
心臓がバクバクと鳴る。
荒い息を感じて、ミルフェは心臓の辺りを右手で抑えた。
俯いた拍子にさらりと腰まで伸びた銀髪が流れる。
月の光に照らされた髪は整った顔を浮かび上がらせた。
少しつり上がった大きな瞳の色は緑。意志が強そうに輝いている。
少し呼吸が整ってくると、周りが薄ぼんやりと見えてくる。
(私の部屋だ…)
額の汗を拭って細い息を吐く。
(久しぶりに大声出したな…昨日の事をまた夢に見るなんて…いや!気にしてない!あいつの傍若無人な行動など、慣れてる!
気にしてない!絶対気にしてない!)
桃色の唇を噛みしめ、目を閉じた。
その瞼には茶色の髪と瞳を持つ少年がいる。
何度も記憶から追いやろうとした旅の仲間。昔の友人。
(私の…唯一の人…)
この3年間封じ込めていた記憶がミルフェの瞼を震わせた。
ゆっくりとまばたきをして、涙をはらう。
窓の外には白い月が見える。
ぼんやりと見つめる瞳に影が映った。
大きな羽を持つ鳥が近づいてくる。
ミルフェは布団をはねのけて窓辺へ寄った。
月明かりに浮かび上がった影は鳥ではない。大きな羽を一つだけ。それを器用に動かすのは、覚えのある人型の影。
窓の縁に身を寄せて、そっと伺いみる。
しばらく回っていた影がふいに見えなくなった。一分ほど待ってから、ミルフェは窓から顔をのぞかせた。
「ばぁ~♬」
はぁとマークが付きそうな声と共に死角から茶色い瞳がきらめいた。
ミルフェは無言で茶色の髪を掴むと窓の中へと引きずり込む。
窓を閉め、周囲の気配を探った。
誰かが起きてくる様子が無いことにホッとする。
「馬鹿トラム…」
唸るようなミルフェのつぶやきに、前髪をわしづかみされたトラムは満面の笑みだ。
「何しに来た…」
このままむしり取る勢いで髪の毛を握りしめる。
「迎えに来た。」
緑の瞳を真っすぐにとらえ、トラムが微笑む。
ミルフェより頭一つ分高いトラムは、座り込んだ状態で見上げる。
目の前に垂れ下がった銀髪を弄ぶ。
3年分の気負いも何もないその様子に、ミルフェはこめかみをひきつらせた。
「馬鹿だ…馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、どこまで馬鹿なの!?馬鹿トラムー!」
(キョトンとした真っすぐな目が忌々しい!)
「何なの!?何なの!?私を捨てたのはあんたでしょ?!使えないヤツだと思ったのはあんたでしょ?!今まで何の連絡もなく、3年!」
緑の瞳が茶色の瞳を射る。
「3年よ!」
トラムは呆けたような顔でミルフェをまじまじとみる。
怒りに顔が赤くなっているのがわかったが、視線をそらさず睨みつけた。
しばらく沈黙した後、トラムがつぶやいた。
「綺麗になったね。」
心底嬉しそうに、優しい笑顔をミルフェに向ける。
思わず緩んだ手をとると、視線はミルフェを見つめたまま唇を寄せる。
「綺麗に…なった」
もう1度つぶやいてミルフェを抱き寄せる。
その腕の逞しさも、耳元で聞こえるため息も、自分の記憶にはないものでミルフェは戸惑った。
「ミルフェ…」
そのせつないつぶやきに、ミルフェの肩がはねる。急に自分の知らない誰かに抱きしめられているような気分になった。
「トラム…?」
確かめる為に声を出す。
逞しい肩に手をつき距離を置く。
腰にはトラムの組んだ両手が残る。
覗き込むと茶色の瞳が疲れたように瞬いた。
「生きてて…良かったわ…」
ポツリとミルフェの口から言葉がこぼれる。
はっとした顔でトラムが顔を上げた。ゆっくりと笑みを深める。
「うん。ミルフェ大好き!!」
両手を引き寄せ、トラムが密着する。
「エ?あっやっやややややややっっっっっ!!それやっ!」
真っ赤になったミルフェが再度茶色の髪をつかみあげる。だが今度も気にならないようで、トラムはミルフェの胸元に頬をこすりつけた。
「は~♥いい匂いがする。」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿トラム!!」
(あんたなんかあんたなんか、やっぱり大きら~い!!!!!)
読んでいただいてありがとうございます。
全く通じてないんだろうな~?と思いきや通じてる2人?
ミルフェ14才、トラム16才の設定です。
一応。