6話 やり込んだゲームは夢に見る事多いんです。
一人で色々といじっていると時間も経つのが早いようで
進んでいた方向からうっすらと空の色が変わり始めてきた。
まだルピスはよく寝ているみたいだし、起こす前に移動手段の方を試しておくか。
マクロを意識して起動させ、狼妃召喚を発動・・・・・・、詠唱は3秒くらいか。
魔法陣が地面に描かれそこから黒いエフェクトに包まれて彼女は顕現した。
狼、古来日本では大神とも呼ばれていた、山の神の化身。
どこぞの神話では本体は夜空を覆い尽くすとかいう話も聞くが、
ここに俺が召喚したのはそれとは別物。
体長2メートルちょっとのフサフサシッポのワンコっぽい何かである。
「ワンッ」
一声泣いて頭を膝あたりに擦り付けてくる、おー可愛いなぁ。
「久しぶりだなぁ、元気だったか?」
「ワォンッ」ハッ ハッ ハッ ブンブンとシッポを振りお座りの姿勢で
指示を待つ狼妃、実に健気でペットの鏡である。
「お前さんも人型で召喚すれば喋れるんだろうけど、
今回は乗せてもらわにゃいかんからなぁ。すまんが頼むな。」
「ワフンッ」 狼妃は気にするなと言いたげに鼻先を擦りつけてくる。
ゲームでは一度に使役できる、いわゆるペットキャラは一体だったけど
どうやら人形使い(ドールマスター)の人形とサモナーの召喚神獣とかは
少なくとも職業ごとに呼び出しても、同時に使役出来るみたいだな。
飛竜やアンデッドもいけるならPT組んでるみたいなもんだな、
ゲームの時なら実質は一人だけど、ここでは各自に命も個性あるんだろうし。
狼妃を撫でてやっているとルピスも起きてきた。
「・・・・・・・ワンコ」
ああ、触りたいのね、でも ちょっと怖いのかな? 毛皮にくるまったまま
じっと見ている、と 狼妃がシッポを目の前に持っていって
ポスポスと地面を叩いてみせる。
「触っていいってさ、ルピス。」
恐る恐る手を伸ばしてシッポを撫でる、
狼妃は俺に首筋を撫でられつつ大人しくしている。
「・・・・・ワンコ ふかふか・・・・・」
「さぁ、そろそろ準備して移動開始とするか、ルピスは懐に戻ってくれ。」
「ん もどる」
ルピスはしばらく狼妃を撫でまくって満足してたらしく、
エフェクトに包まれてアイテムリストに戻っていった。
あれれ、今、俺は送還呪文詠唱しなかったんだけど勝手に帰れるのか?
ふーむ、自己判断で動ける範囲がかなり広くなってるのかねぇ。
「ま、いいか 狼妃、 俺を背に乗せて、太陽が真上に来るくらいまで
太陽に向かう方向へ走ってくれ。あっちの方だけど大丈夫かな?」
「オンッ」
短くはっきりと任せろって感じで返事する狼妃。
まぁ、とりあえずは真っ直ぐ特定の方向に進むしかなかろうしなぁ。
MAPになんか表示されれば縮尺含めて参考になるんだけどなー。
毛皮やランプ等をアイテムリストにしまいつつ MAPウィンドウを常時表示にしておく。
そして狼妃に跨っての移動を開始したんだけど、けっこう速いな、これは。
イメージ的には大きさとか跨った感じとか、ちょうどバイクみたいなんだけど
視線の高さはクルーザー? アメリカンよりちょぃとばかし高いかなってとこ。
前傾姿勢気味で肩のあたりに手を置いて掴まってるので、
どっちかっていうとSSかオフっぽいけど。
速度的にはどのくらいなんだろ? 原付で流してるくらいは出てるように思えるんだけど。
それだと30km/hくらいなのかな? 周りに対象になるものがないから判りづらい。
受ける風の感じとかだとそのくらいっぽいかなーっ。
そして途中で休憩を少しづつ入れながら、体感で約3~4時間程走った頃
今まで何も表示されていなかった白地図の視認している端の方、進んでいる方向に
グレーのラインが表示されて出てきた。
だんだんと東の方向から近づいてくるソレは、最初何もないように見えた。
俺に見えているのは相変わらず真っ平らな乾いた地平線。
なのに、MAPでは そのグレーのラインが近づいてくる。
なんだろう? MAP表示にバグでも・・・・・と思って、ふと狼妃の背に乗ったまま
少し姿勢を変えて伸び上がり、視線がホンの少しだけ高くなった時、
やっと俺はそれに気付いた。
それはいきなりそこから始まる何もない空間、いや、あるにはあるんだ。
MAPにもグレーのラインの先に表示され始めているし。
なるほど2次元で表示するとこうならざるをえないわなぁ。
それは、おそらく前の世界で俺が見た最も高い建物からの景色よりも高い。
断崖絶壁っていうのはこういうのを言うんだろうという見本みたいな風景だった。
えーっと、たしか以前に池袋の某ビルの水族館に行った時、屋上から下を見たっけ。
あれがうろ覚えだけど確か、240mとかだったかな? それよりきっと高い。
ほぼ垂直、ところどころにはおそらくオーバーハングになってる処もありそうな崖。
それが南北にずっと続いている、その高さで(笑) いやなんか本当に笑えてきた。
バカみたいな、でもすごい景色というか風景だ、口が空きっぱなしである。
断崖絶壁の下にはやっと砂と土以外の色合いが見える、緑だ。
かなり広く、おそらく深い森、森林地帯って言えばいいんだろうか。
MAPの表示で見ると、俺のいるところを中心として南北にほぼ真っ直ぐに崖、
西側が荒野で高原(でいいのか?)、東側が断崖絶壁の下側で森林地帯のようだ。
森の方は処々で高くなっている部分もあるようだけど、
見える範囲では山と言える程のものはない。
そして、MAP上ではその森の中に多数の、いや無数の、と言っていいだろう生物が
白い点の輝きで表示され埋まっていた。ほぼ真っ白になってるじゃないか。
いくら白地図ってもあんまりな仕打ち、モンスターハウスどころじゃないぞ、これ。
昔、某ゾンビゲームをやりこんでた頃見た夢で、ハンググライダーで逃げてたんだけど
降りていく場所にゾンビが山盛りいて、でも避けられず、じわじわと地上が近づくという
悪夢を見たが、あれは怖かった。って 現実逃避してる場合じゃねぇ。
あまりのその数の多さに一瞬パニックになりそうになったが、狼妃を見ると
ワンコは特に構えるでもなく、毛づくろいをしている。
確か、召喚された神獣は
召喚主に対する敵対心を持つ対象に対応して自動攻撃してたよな。
ゲームの初期設定では、だけど。
と、いう事は あの光ってる白い表示は敵対表示ではない・・・・のか?
んーっと、んーっとこういう時は、アレだ、コンフィグだ。
MAPの設定をチェックすると、表示設定(生物、無生物を全表示)となっていた。
()の中を意識して見るとリストを開くことができ、細かく色々と設定があり
その中にあった(アクティブな敵対行動をとる対象)というのがあったので
それにチェックを入れてみると、MAPの白い点がかなり少なくなった。ふぅ~
これなら森に入っても避けつつ移動でき・・・・・、ちょっと待て、俺。
森に入るって、入るって、入る・・・・・・んだよなぁ。
入るしか・・・・・・ないんだろうけど、けど、どうやってこの断崖絶壁を降りるんだ?
浮遊とか飛行なんて魔法はやってたゲームにはなかった、
当然 今の俺の魔法リストにもありはしない。
キン○スフィー○ドとかだと一定以上の高さから落ちると即死だったなぁ、
なんて懐かしい事を思い出しつつもそんな事は今はなんの役にも立たない訳で。
ロープもこの高さに対応するものはないし、
あってもそもそも括りつける所が荒野にはない。
素手なんてロッククライミングの経験もない、ただのおっさんには無理だろう、絶対。
積んだ? いや積んではいない、アレを使えばおそらくイケるはず。
しばらく考えてはみたものの、他に解決できそうな考えも出てこなかった。
ので、俺は(まぁ同時に召喚出来るかも試しておきたかったし)
狼妃に続いての召喚を始めた。
神鳥召喚 詠唱開始・・・・・発動、っと神鳥顕現。
「クアーッ」
真っ黒いそれこそ濡れ羽色というのだろう、体高1.5m程のカラスが現れていた。
北米ならUMAのサンダーバードと間違われる大きさだなー。
ふむ、まぁ ともかく召喚神獣は複数同時召喚が可能みたいだな、
戦力としては安心度が上がったか。
「クァッ クアアッ クアッ?」
「ヒャンッ キャンッ ギャンッ!!」
あーっ、早速、バカ鳥がワンコのシッポをつついてやがる。
「こらっ やめろって 狼妃も少しは抵抗するか、逃げろよっ」
二匹の間に割って入り、バカ鳥の嘴を掴まえてやめさせる。
「狼妃、いったん戻ってくれ、送還するか? 自分で戻れるなら頼む。」
狼妃に聞くと「クォン・・・・・」と「もうかえゆ・・・・・」といったニュアンスで鳴き
自身で送還の魔法陣を開いて消えていった。
まったく神鳥は、光り物とか巣作りの材料になりそうな小枝とか
布の切れ端とかやたらと収集する癖があるようで
気がつくと勝手に拾ったものをアイテムリストの中に溜め込んでいるのである。
小石や虫の足とかでアイテムリストが埋まってるのに気付いた時は
心底げんなりとしたもんだった。神獣仲間の毛とか抜こうとするなよな。
さて、それでは覚悟を決めて行くとするか。
「神鳥さんや、俺をここから下まで運んでくれるか? 行けそうなら森の上を飛んで
見晴らしのいいとこまで移動したいんだが。」
「クアーッ」
いいらしい、なんとなくだけど意思の疎通は出来てるみたいだな。
これなら人目とかの問題がなければ人型で召喚しなくてもいいか、楽だし。
その方がMPの消費も少なかったはずだしなー、もっとも今のMP状況だと
常時複数召喚でも問題なさそうだけど。
流石にこのサイズだと、背に乗るのは無理なので
適当な棍を背中に横に背負う形で括り付け、
それを神鳥に止まり木みたいに使ってもらう。
そして、俺は前世では経験のないスカイダイビング(じゃないけど)に挑戦した。
やっぱりこういう時は定番のセリフが頭をよぎる。
「おっさん、いきま~す」
いやいや、実際には声にも出さず、ですが。
(ZZの外注動画とかやってたんだよなぁ、懐かしくかつ、おっさん過ぎる)
俺は神鳥に掴まれたまま、断崖絶壁を蹴り
ヒュンッ
今のは風を切る音っ、けっ 決して股間が縮み上がる効果音でなくうぅぅぅぅぅぅっ。
おっさんはみっともなくも足をバタバタとさせながら
眼下の森の上へと、飛び落ちて行くのでありました。
(主観的にも感覚的にも 飛ぶ、ではなかったらしい、
他人事みたいに言わないとこんなの無理だァァァァァァァっ)
やっと荒野から脱出です、ちなみに主人公の経験は作者を参考にしてますので
キング○フィー○ドとか某ゾンビゲームにはまったとかZZの外注とかは
全て事実です(笑)。