うろな町のコンビニの彼
うろな町に私は三ヶ月前に引っ越してきた。
夜のコンビニの前____もう、八月に入るという時期なので12時でも充分暑い。
私はそこで、ある人を待っていた。
ある人……彼の名前を私はまだ知らない。それどころか、年齢も、住んでいる所も、趣味も、学校か働いている所も一切知らない。
そして、彼はたぶん私の事を忘れているだろう。
それでも、私は待ち続ける。
彼に____お礼を言う為に。
『60回』も。
あれは四月、こちらで初めて出来た友達と遊んだ帰りにコンビニで雑誌を買って自分の家に帰ろうとした時のこと。
時計を見ると、すでに11時を回っていた。
普通なら警察に補導されてしまう時間なので、急いでコンビニを出た。
ただ、その時は運が悪かった。
「きゃっ!」
「ってぇ……あぁっ! てめぇ、なにしてくれちゃってるんだっ!!せっかく買ったシュークリームが台無しじゃねぇかっ!」
そう、急いでいたのと暗かったのが合わさり、柄の悪い人にぶつかってしまったのである。
「ごっ、ごめんなさい!!」
「謝って済むと思ってんのかぁっ!!
……よく見ると、結構いいじゃねえか……この借りは体で返してもらうしかなさそうだなぁ!!」
「きっ、きゃっ!」
その男は私の服をいきなり掴み、私を何処かに連れて行こうとした。
正直、私は怖くてただ、震えることしかできなかった。
でも、その時、
「おい、そこの禿げ、なにしてんだよ」
そう、彼が現れたのである……。
コンビニの裏口から出てきたということは……アルバイトだろう。というか、アルバイトと書いてあるバッチを手に持っていた。
「あぁっ! 誰が禿げじゃっ!! まだ、ふっさふさじゃわっ!!」
「いや、ココロが禿げてんだよ」
この人、なんだろう? ……悪い人じゃなさそうだけど。と、私は思った。
「野郎がぁっ!!」「きゃっ」
柄の悪い男は私を突き飛ばし、アルバイト君に殴りかかる。
殴られる、そう思って目を閉じ……恐る恐る目を見開いた時、一番初めに入ってきたのは
……崩れていく、柄の悪い男だった。
「え?」
「あっ」
そして、彼は初めて私の存在に気づいた様に驚いた表情して、アクロバットな動きで後ずさり____逃げ出した。
「て、ええっ?」
まあ、それから私は呆然としてしまい、少ししたら自分の家に戻ったのだけど、お風呂に入っている時にお礼を言っていないのに気づいた。
それで、お礼を言う為に次の日に会いに行ったのだが、なぜか逃げられる。
それを繰り返して早二ヶ月。今だにお礼が言えていない。
だから、今日こそは……っ!
「あっ」
そう思っているうちに彼が裏口から出てきた。
あれ? いつもなら周りを見渡したら直ぐに私を発見し逃げるのに、彼は私を発見したと思ったら、こちらに向かって歩いてきた。
ええっ? でっ、でも、チャンスだ。
私か駆け足で彼のもとへ走り
「あっ、あの、わ……」
お礼を伝えようとしたが、それを遮り彼が叫ぶ。
「一目惚れしましたっ!!! 好きですっ!!」
どうやら私は……この街にきてから色々なことに巻き込まれる様になったみたいです。