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アムリタはめぐる  作者: おかのん
第1章
7/28

二人とファローの出会い

 三人が話している間ファローはというと、実は去ったふりをして、こっそり木に登って話を聞いていた。

 自分がいないところでの話なら、リドルの頑なな理由の片鱗でもつかめるかと思ったのだ。

 

(リドル・・・ お前は一体、何を考えている?)


 今までリドルの語った言葉を思い出す。


『・・・・・・お前の気持ちはわかるよ。俺も、同じことで悩んだんだ。

 けれど、お前は、俺のように『悲観的』にはなれないだろう。うまくやる方法を探してしまうだろう。

 

 それじゃ、隠しきれない。


 そして、『うまくいかない』証拠は、お前自身の、そんなところだ。

 だから、話すわけにもいかないんだ』

『・・・その通りだ。俺達が言いたいのも、ひろめたくない理由もまさにそれだ』

『・・・俺は、妹を失いかけた事がある』


 彼は、ファローに対して誠実であった。それは、感じるのだ。ファローのあり方、思いに好感を持ってくれている。そして、嘘は言っていない。殆ど何も分かっていないアムリタの事だ。嘘をついてしまえばいくらでもけむに巻けたはずである。

 にもかかわらず、『話せない』といった以上、その言葉が嘘とは思えない。そして、『嘘をつきたくない』と思ってもらえたという事は、ファローは本当に嬉しかったのだ。

 でもだからこそ、話して貰えない事は不満だった。

 どうして、万能薬ともいえる『アムリタ』をひろめる気がないのか。ひろめてはならないのか。

 ・・・なぜその理由を、ファローが聞いてはいけないのか。


(リドルは、妹を失いかけた事があると言った。それが本当なら、私の気持ちは分かる筈だ。リドルはきっと、それをわかった上で話せないと言っている・・・)


 結局、知らないままでは納得など出来ない。しかし、分かった上で話せないだけの理由は確かにあるのだ。

 そして。


(人間と暮らさせようとしてヴァスを連れて来ただと・・・?

 本当に、アムリタをひろめる為に連れて来たのではないだなんて・・・)


 話を聞いてみれば、それが本当の理由であるのは分かった。実際、らしいと言えばらしい。いやむしろ、それでこそリドルだとさえ思った。親友が幸せたるために、ともに居場所を探す。ファローが、この短い旅に同行しようとした理由たる、彼の優しさだ。



 ファローと二人が出会ったのは、山間のとある村でのことだった。

 カーリュッフ王国立カーリマンズ学院付属病院に勤務する医師であるファロー=チェヌカは、原因不明の病に悩まされるその村に派遣された。ファローが派遣された理由はいくつかありそうだったが、単にそれなりに優秀であったとか、そういうことではない。

 ・・・ハーフエルフであり、身寄りがないという事。

 押し付けたというよりも、拒否しなかったというのが近い。原因不明の病に冒された地域というのは、危険度さえも正確に測れない。誰がどんなふうに苦しんでいようと、自分の命がかかった場合、その使命感だけで乗り込んではいけない。愛する者が居るのなら尚更、責める事も出来まい。そんな中、すでに天涯孤独であり、使命感に燃える医師が拒否をしていないのなら、お鉢が回るのは当然ともいえた。


「先生、ドナんちが・・・」

「・・・・・・はい」


 やる気があっても力が伴わなければ成果は出ない。原因不明の病は解明の兆しさえ見えなかった。


(くっ・・・ もうここにきて二週間になる。なのに、何も出来ていない。

何も、何も・・・・・・!)


 気ばかりがはやる。出来る事は同じ。疾病した家に赤いバツをつけて、遠まくだけ。

 一家全員死んだ家は火を放たねばならない。幸いまだそうなってはいないが、そう遠い日の話とは思えない。


 そんな時だった。ふらりとやってきたリドルとヴァス。

 二人は、この村の現状を近隣の宿場町で聞き、やってきた。


「・・・これ、トピライカで。カルアナク病?」

「だな。俺達が言う事じゃないが、最近トピライカとの交流は盛んになり始めている。トピライカにしかない病原菌が入り込むことは不思議じゃない。かかるかかからないかは個人差があるし、潜伏期間というのもあるからな」


 彼らが一目で見抜き断言した未知の病。治療薬はすぐさま作られ、村人に配られた。

 いつ疾病したか、何日目か、どのように広がったと予測できるか。その辺りはファローがきちんとまとめてあったために、優先して治療するべきが誰かに手間取ることはなかった。一番最初に疾病したのが誰かを特定することによって、トピライカから誰が持ち込んだのかまで特定できた。

 死者は数人に抑える事が出来た。そして・・・


 最後に、抵抗力が弱い子供がひとり、峠を迎えていた。


 治療薬の効果が追い付くかどうかが分からなかった。他に出来る事はすべてやった。後は天に任せるしかないかという時・・・


「ヴァス。・・・お前が決めろ。アムリタを使うかどうか」

「やろ。言わなければ、いい。」


(アムリタ?)


 彼らの話を聞きたくて、滞在している部屋を訪れようとしたファローが偶然聞いたその言葉。

 


 アムリタ。


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