二人
「ただいま」
「お帰り」
ティナの帰りを待ちわびていたのは当然、夫であるヴァスである。
自然に浮かぶ笑みと、法衣を脱がす手際。身を任せるしぐさと、安らいだ雰囲気がなじんでいる。
「ご飯、出来てる」
「うん、先に食べるね」
ヴァスは、ティナの付き人という形で収まった。
彼女の血が特別という事になった上で、それが神よりの贈り物となれば、それ以上を調べるのは難しくなる。宗教はその閉鎖性、神秘性が必要なだけに、情報の漏洩は管理する理由として十分なのだ。開示を求められる事もない。
これが医療技術なら、間違いなく独占を咎める意見が出てくる。その意味では、この形に落ち着いたのは当然と言えるのかもしれない。
今日はポトフである。
宿屋の娘だけにティナの得意料理の一つ。勿論ヴァスはティナに教わったのだ。特に値の張る食材は無い。ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、腸詰、キャベツ。ライ麦のパンは汁につける事が前提の硬さ。
巨大過ぎる宗教組織の長である、いや、神そのものと崇められる人間の食事としては質素に過ぎる。そもそも食事を用意するのがヴァス・・・夫である必要さえない筈だ。そのための人間がいておかしくない立場なのだから。
大きな組織の長が贅の限りを尽くすのは、ある意味義務である部分がある。高い技術に見合う代金を払える者が、相応な贅沢をしなければ、その下に居る者もそれを享受できない。高い技術が必要なくなってしまうのだ。それは宗教組織でも変わらない。だから・・・
これはむしろ、二人の我儘なのだった。
向かい合ってではなく、隣りあって座る。
鳥のガラと野菜の皮から取ったフォンによく煮込まれた食材。ありふれてはいるが、香りのよい、丁寧に作られたいつものワイン。
「・・・あ、今日はワインはやめておくわ」
「え、どうして」
「ふふ」
目を細めて、腹をポンポンと優しく叩く。
それだけで、後の言葉はいらなかった。
ヴァスは頬を染め、瞳をキラキラと輝かせた。
それは、あの時の反応と同じだった。
顔どころか全身を真っ赤にして、文字通り血をたぎらせて。初めて出会って・・・ 一目惚れをしたときと、同じ。
頬を腹に寄せる。あの時、胸に顔をうずめたように。
「・・・いいのかな」
「何が?」
「僕等は、幸せだから。何の、苦労もなく・・・
みんな、がんばってる。信者の人、頑張って、頑張って・・・ それでも、うまくいかなくて、縋るんだ。神さまに。
ティナに・・・
僕が分けた、血の、力は・・・ なくては、ならないもので。
それを・・・ 分けてる、ティナも、そうで。
けれど。
・・・・・・僕等は、こんなんでいいんだろうか」
そのまま、目を閉じた彼を見て。
ティナも少しだけ寂しそうに眼を閉じる。
そして、告げる。
「そうね」
彼の喜びに、水をさす話を。
ヴァスは。
・・・受け入れるしか、ないのだけれど。




