表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

二人

「ただいま」

「お帰り」


 ティナの帰りを待ちわびていたのは当然、夫であるヴァスである。

 自然に浮かぶ笑みと、法衣を脱がす手際。身を任せるしぐさと、安らいだ雰囲気がなじんでいる。


「ご飯、出来てる」

「うん、先に食べるね」


 ヴァスは、ティナの付き人という形で収まった。

 彼女の血が特別という事になった上で、それが神よりの贈り物となれば、それ以上を調べるのは難しくなる。宗教はその閉鎖性、神秘性が必要なだけに、情報の漏洩は管理する理由として十分なのだ。開示を求められる事もない。

 これが医療技術なら、間違いなく独占を咎める意見が出てくる。その意味では、この形に落ち着いたのは当然と言えるのかもしれない。


 今日はポトフである。

 宿屋の娘だけにティナの得意料理の一つ。勿論ヴァスはティナに教わったのだ。特に値の張る食材は無い。ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、腸詰、キャベツ。ライ麦のパンは汁につける事が前提の硬さ。

 

 巨大過ぎる宗教組織の長である、いや、神そのものと崇められる人間の食事としては質素に過ぎる。そもそも食事を用意するのがヴァス・・・夫である必要さえない筈だ。そのための人間がいておかしくない立場なのだから。

 大きな組織の長が贅の限りを尽くすのは、ある意味義務である部分がある。高い技術に見合う代金を払える者が、相応な贅沢をしなければ、その下に居る者もそれを享受できない。高い技術が必要なくなってしまうのだ。それは宗教組織でも変わらない。だから・・・


 これはむしろ、二人の我儘なのだった。



 向かい合ってではなく、隣りあって座る。

 鳥のガラと野菜の皮から取ったフォンによく煮込まれた食材。ありふれてはいるが、香りのよい、丁寧に作られたいつものワイン。


「・・・あ、今日はワインはやめておくわ」

「え、どうして」

「ふふ」


 目を細めて、腹をポンポンと優しく叩く。

 それだけで、後の言葉はいらなかった。


 ヴァスは頬を染め、瞳をキラキラと輝かせた。

 それは、あの時の反応と同じだった。

 顔どころか全身を真っ赤にして、文字通り血をたぎらせて。初めて出会って・・・ 一目惚れをしたときと、同じ。


 頬を腹に寄せる。あの時、胸に顔をうずめたように。

 

「・・・いいのかな」

「何が?」

「僕等は、幸せだから。何の、苦労もなく・・・

みんな、がんばってる。信者の人、頑張って、頑張って・・・ それでも、うまくいかなくて、縋るんだ。神さまに。

 ティナに・・・


 僕が分けた、血の、力は・・・ なくては、ならないもので。

 それを・・・ 分けてる、ティナも、そうで。


 けれど。


 

 ・・・・・・僕等は、こんなんでいいんだろうか」


 そのまま、目を閉じた彼を見て。

 ティナも少しだけ寂しそうに眼を閉じる。

 そして、告げる。


「そうね」


 彼の喜びに、水をさす話を。

 ヴァスは。


 ・・・受け入れるしか、ないのだけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ