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アムリタはめぐる  作者: おかのん
第3章
25/28

クルアム教ギーネス派崩壊と、真・クルアム派の台頭

 ・・・荘厳なる祭壇。


 かがり火のゆらぎと、周りに控える幹部達の厳格な佇まい。


 我らが教主の神々しき御姿。


 

 ・・・それが突如として破られた。



 なんだこれは。なんなのだ。



 突如現れた黒ずくめの男達十数人は、祭壇の上の教主と幹部連中を問答無用で惨殺した。どこかの特殊部隊のような手際の良さで、リーダーとみられる背が高めの女は、血だらけの祭壇でたからかに宣言した。


「我らは真・クルアムであるっ!!!

 ギーネス派前教主であるグラスゴ・ブンドドは、神聖なるクルアムの教義を忘れ、あまつさえ私物化し私腹を肥やし、我らが同胞である諸君らを欺き、罪を犯させようとしていた。

 これは当然の報いであり、我らが誅したっ!!!!!」


 ばさあ、と散蒔かれた紙束には、『聖戦』と称して、クルアムの教えを理解しようとしない子羊を転生させるという名目で、勢力拡大のための大虐殺を行う計画が書かれていた。

 紛れもなく教主の筆跡であった。


 クルアム教は、紀元前に存在したラーズ教を新しく解釈したセルト教や、天使降臨を謳うヨダロ教、魔塔教義と呼ばれる新興フィーズ教のどれとも違う種類の教義をしている。

 それぞれの種族にそれぞれの宝具を持ち、世界を救ったとされる勇者達を称える教えだ。

 ギーネス派は、勇者はもう一人いた、ギーネス様こそがリーダーであり神の化身であったとして敬うものであった。真なる教えながら、今まで認められていなかった存在を崇めていたため、伝統あるクルアムの教えとは外れているとされてしまった。口さがない者は、クルアムの皮をかぶったインチキ新興だと言ってはばからなかった。

 そんな苦境にも、真なる教えに沿って日々を生き抜いている我らを、神は・・・ ギーネス様はご覧になっていてくださると思っていた。その教えを我らに示してくださったグラスゴ様を心から尊敬していた。


 そして今。


 紙束に書かれた計画は、まるっきりテロであった。自分の信じていたものは崩壊した。グラスゴの二枚舌に乗せられて、バカな妄想に付き合った挙句に、こんな所で罪人もろとも、同じ穴の狢のような狂信者に誅殺されるのだろうか。


「我らはギーネス様の存在を確信する者達である。故に諸君らとは同胞である。真・クルアムは諸君らと共にある。

 グラスゴは真理にいち早く気付きながらも、それを諸君らを欺くことに利用することしかしなかった。我らはそれを知り、奴を誅する事と同時に、正しき担い手の導きを得ることに奔走した。

 そして今ここにお連れした!!

 我らの真なる教主、いや、ギーネス様の再来である、ティナ・N・レーウワルデン教主であるっ!!」


 しずしずと出てきたのは、線の細い女性であった。

 まだ若く、どこかの大学で研究でもしていそうな理知的な目をしていながら、どこか温かみというか、親しみのわく微笑みを浮かべている。


「・・・今、ギーネス様の再来だなどと言われましたが、そうではありません。私は『神の血』を継いだのではなく・・・ 『神の血』を分け与えられた者に過ぎません。

 私の中で、薄まってしまったそれは、しかし確実に神の加護を受けています。かつての勇者様達を導いた、『神』の血は、その完全なる存在たろうとする力の一部を、不死によって現しています」


 ・・・よく意味がわからなかった。

 このお方は死ぬことがないということだろうか。


 けほっ・・・


「そこの者」

「も、申し訳ございません」

「いや、何かしらの病かな?」


 顔見知りの老婆だった。

 この街の・・・特に貧民街の空気の悪さもあり、いろいろな病を併発しているはずだ。


「臓器そのものをやられている場合は効果はないが・・・少しは楽になるだろう」


 そう言って、黒ずくめのローブの女は、注射器を取り出した。

 老婆の腕から血を抜き、いくつかの皿の上に垂らした後で頷く。

 新なる教主と言われた女性の腕から血を抜いて、それを老婆に注射した。


 劇的な反応ではなかった。

 光を放つわけでも、目に見えて老婆が若返るわけでもない。

 しかし。


 咳は止まった。


 小一時間もすると、老婆は『楽になった』と言った。


 何より・・・


 

 その間に語られた話は、心にすとんと落ちる話であった。


 世界とか、神の視点とか、真実を捻じ曲げる他の邪教とか、それぞれの王の悪政とかへの弾劾ではなく。

 病に苦しんだ彼女が、その血を神託により分け与えられた時に、自らがまた伝えることで、自分と同じように病に苦しむ者を助けたいと、神に許しを請うた話。

 優しさなどではなく、自分と重ね合わせてしまうことで助けずにはいられない、それこそエゴで願っていた、と。神はそれを聞き入れてくださった、と。

 その心は、その話は、どんな自己犠牲の英雄の話よりも、ずっとずっと頷くことのできる想いの話だった。

 『同じ命なのだ』と、己と重ねて否応なく感じた時の世界の見え方が、今という瞬間の尊さが、はっきりと伝わった。同時に、教えに救いを求める自分の矮小さに恥ずかしくなった。

 

 この人が。

 神から血を分け与えてもらえるような方が。 


 『己と同じ者』を『救わずになどいられない』という思いでここに居るのに。

 

 私はなぜ求めるばかりで、何かを成そうとしなかったのか。



「我々は教主からさらに血を分けていただき、それをさらに分け与えることで、病に苦しむ者達を救うことを神より許されている。

 それは請われて行く事になることもあろうし、多くの見返りを示そうとするものが現れることもあろう。しかしその誘惑に負けて大罪7つを犯す者はことごとく処罰する。我々が抱いて良い欲望は、救わずにはいられないという思い、それのみである」


 その黒いローブの女性、幹部であろう人の言葉に、教主が微笑みかける。

 それに対して、その女性は、悲しみと怒りと憂いを混ぜたような顔をした。

 

 その意味はわからない。

 

 これ以後、グラスゴ誅殺後のクルアム教ギーネス派『真・クルアム』は、世界を変える戦いを始めることになる。


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