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アムリタはめぐる  作者: おかのん
第3章
19/28

竜牙兵のような

「・・・基本馬鹿な私に分かるように説明して欲しいんだけど」

「サリア姉・・・」


 サリアは自分が言うほど馬鹿ではないが、興味がない事はとことん知らない。

 こういう時噛み砕くのが巧いのはラトだった。


「・・・ウイルスが体に入ってきてしまった時のために、それと戦う細胞がある。それはいいよな?」

「『抗体』ってやつね。それは分かる」

「で、『アイディス』って病気は、それ自体は体に大したことはしてこないんだが、その代わりに、『抗体』を倒してしまう」

「うんうん」


 ここでラトは呼吸を置く。


「・・・というのが今まで『アイディス』の被害だと思っていたんだが、どうやら違うんだ」

「は?」

「『アイディス』がやっているのは、『抗体』を『産み出す細胞を破壊する』という事だというのが最近分かった」

「・・・つまり?」

「国に例えようか。アイディスはアサシンみたいなもんだ。騎士の詰所に火をつけてまわるのが巧い。しかもすばしこいので騎士に捕まえるのは無理としよう。ただし奴等は他には一切何もしないんだ」

「また随分限定された能力ね」

「アイディスに勝つ必要は無いとして、それとは別に、国を盗賊どもから守るにはどうする? 単純に」


 サリアは対して考えもせずに言った。


「どうしたらも何も・・・詰所なんかにいなきゃいいじゃない。詰所に火をつけるしか出来ないんでしょ? 盗賊に対処するのは別問題よ」

「その通り。先に配置済みの騎士がいればいい。

 抗体を作る細胞がいなくても、抗体そのものが出来ている状態なら病原菌は対処できる。

 ただ、俺たちの体は、敵が来てから詰所に連絡が行く事になってしまってる。この仕組みを変える事が俺達には『出来ない』」

「・・・まあ、そりゃね」

「だが・・・驚いたことに。

 ・・・『彼女の血』には、私服の騎士が仕込み杖持って紛れ込んでるんだよ」


 サリアも少しのみ込めてきた。


「・・・それ、私服の騎士って言うより・・・『竜牙兵』の方が近いんじゃないの?」


 竜牙兵・・・ドラゴントゥースウォーリア。竜の牙を媒体に作られる、単純な命令を聞く兵士。寝る事もなく疲れもしない魔法生物だ。

 休む場所がなくてもいい兵隊。それはもう騎士ではない。


「お、冴えてるなお前。確かにそっちの方が近いぜ。ラト、発想力はサリアの方がやはり高いんじゃないか?」

「それ、むしろ俺が言い続けてる事ですよ。サリア姉の方が『頭が回る』って」


 それはともかく。


「元々、延命の方法の一つとして、既に抗体を出してる血を輸血するって方法が考えられてる。アイディスに勝つ必要は無いんだ。病原菌が体内に入り込んだ時に、抗体が・・・よそからの『援軍』がくればいい。

 で、この血には、『アサシンのやり方が意味のない』兵力が混ざってるわけだ」


 抗体としては既存のものと同等以上で、今までと全く違う体系のそれ。


「研究の必要はある。しかし・・・これは本当に、『万能薬』に近いモノである可能性がある。アイディスそのものを治療できない代わりに、アイディスによって起こる問題そのものは解決できてる」


 そう。それが一番重要であった。

 不治の病のはいまだ不治であるが、脅威を消す事が出来る。延命の手段として十分に機能するのだ。


 彼らはすぐさま研究に乗り出した。おっつけここに来る予定のファローやリドルも、既に知られているのであれば、彼らの研究に協力する形しか取れないだろう。一人や二人でこそこそと研究するより、研究室一つ丸ごと巻き込んでやった方が絶対に早いのだ。

 

 ティナのエゴは、ここまでだった。

 少しでも早く、誰も何も失うことなく、この奇跡の薬を広めて欲しかった。

 ここまでの、筈だった。


 

 ・



 研究室というのは、セキュリティははっきり言ってバラバラである。教授の裁量によるところが大きいからだ。

 カルファト教授の研究室は、遺物(ロストマギカ)に関してはきっちり管理してある。しかし、部屋そのもののセキュリティはザルに近い。


 具体的にいえば。

 立ち聞きが可能で。

 忍び込もうとすれば忍びこめる程度。

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