竜牙兵のような
「・・・基本馬鹿な私に分かるように説明して欲しいんだけど」
「サリア姉・・・」
サリアは自分が言うほど馬鹿ではないが、興味がない事はとことん知らない。
こういう時噛み砕くのが巧いのはラトだった。
「・・・ウイルスが体に入ってきてしまった時のために、それと戦う細胞がある。それはいいよな?」
「『抗体』ってやつね。それは分かる」
「で、『アイディス』って病気は、それ自体は体に大したことはしてこないんだが、その代わりに、『抗体』を倒してしまう」
「うんうん」
ここでラトは呼吸を置く。
「・・・というのが今まで『アイディス』の被害だと思っていたんだが、どうやら違うんだ」
「は?」
「『アイディス』がやっているのは、『抗体』を『産み出す細胞を破壊する』という事だというのが最近分かった」
「・・・つまり?」
「国に例えようか。アイディスはアサシンみたいなもんだ。騎士の詰所に火をつけてまわるのが巧い。しかもすばしこいので騎士に捕まえるのは無理としよう。ただし奴等は他には一切何もしないんだ」
「また随分限定された能力ね」
「アイディスに勝つ必要は無いとして、それとは別に、国を盗賊どもから守るにはどうする? 単純に」
サリアは対して考えもせずに言った。
「どうしたらも何も・・・詰所なんかにいなきゃいいじゃない。詰所に火をつけるしか出来ないんでしょ? 盗賊に対処するのは別問題よ」
「その通り。先に配置済みの騎士がいればいい。
抗体を作る細胞がいなくても、抗体そのものが出来ている状態なら病原菌は対処できる。
ただ、俺たちの体は、敵が来てから詰所に連絡が行く事になってしまってる。この仕組みを変える事が俺達には『出来ない』」
「・・・まあ、そりゃね」
「だが・・・驚いたことに。
・・・『彼女の血』には、私服の騎士が仕込み杖持って紛れ込んでるんだよ」
サリアも少しのみ込めてきた。
「・・・それ、私服の騎士って言うより・・・『竜牙兵』の方が近いんじゃないの?」
竜牙兵・・・ドラゴントゥースウォーリア。竜の牙を媒体に作られる、単純な命令を聞く兵士。寝る事もなく疲れもしない魔法生物だ。
休む場所がなくてもいい兵隊。それはもう騎士ではない。
「お、冴えてるなお前。確かにそっちの方が近いぜ。ラト、発想力はサリアの方がやはり高いんじゃないか?」
「それ、むしろ俺が言い続けてる事ですよ。サリア姉の方が『頭が回る』って」
それはともかく。
「元々、延命の方法の一つとして、既に抗体を出してる血を輸血するって方法が考えられてる。アイディスに勝つ必要は無いんだ。病原菌が体内に入り込んだ時に、抗体が・・・よそからの『援軍』がくればいい。
で、この血には、『アサシンのやり方が意味のない』兵力が混ざってるわけだ」
抗体としては既存のものと同等以上で、今までと全く違う体系のそれ。
「研究の必要はある。しかし・・・これは本当に、『万能薬』に近いモノである可能性がある。アイディスそのものを治療できない代わりに、アイディスによって起こる問題そのものは解決できてる」
そう。それが一番重要であった。
不治の病のはいまだ不治であるが、脅威を消す事が出来る。延命の手段として十分に機能するのだ。
彼らはすぐさま研究に乗り出した。おっつけここに来る予定のファローやリドルも、既に知られているのであれば、彼らの研究に協力する形しか取れないだろう。一人や二人でこそこそと研究するより、研究室一つ丸ごと巻き込んでやった方が絶対に早いのだ。
ティナのエゴは、ここまでだった。
少しでも早く、誰も何も失うことなく、この奇跡の薬を広めて欲しかった。
ここまでの、筈だった。
・
研究室というのは、セキュリティははっきり言ってバラバラである。教授の裁量によるところが大きいからだ。
カルファト教授の研究室は、遺物に関してはきっちり管理してある。しかし、部屋そのもののセキュリティはザルに近い。
具体的にいえば。
立ち聞きが可能で。
忍び込もうとすれば忍びこめる程度。




