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アムリタはめぐる  作者: おかのん
第2章
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ヴァスの紡ぐ言葉とその瞬間だった幸運

 『アムリタ』を探してヴァスの体をファローがまさぐる。


「ファロー。『アムリタ』って、何なの。 ・・・ううん、なんでもいい。やめて。

 はたで見てたら、貴方がやってる事、強盗じゃない」


 かけられる言葉に、ファローの手が止まる。

 この友人にそう思われるのは、ファローも辛かった。しかし、実質その通りだとも思う。『アムリタ』は、ヴァスの物なのだ。無理矢理奪えば強盗だ。たとえ、それを研究する事で、数億の命が救われるとしても、それとこれとを同列で論じてはならない。命の事を盾にして許される道理はないのだ。

 

「わかって、いる」

「ファロー・・・!」


 だから、その事実を言い訳にする気はない。それを正義とする気はない。

 その結果、誰かが救われるのなら、それでいいと。


 ファローにとってそれは免罪符でもない。ただ、このままでは救われずに消える命があると思うと、居ても立っても居られない、それだけなのだ。

 それでも。



 ・・・何を探せばいいのかもわからないままの、アムリタを求める手を、ヴァスは掴む。


「っ・・・!!」

「ファロー・・・ ごめん。 リドル、も・・・言ってた。俺も、同じ事思う。

 ・・・ファローの気持ち・・・ 分かる。だからこそ、俺達・・・ 言えない」


 何度でも聞いた、その言葉。分かるから、言えない、と。

 たどたどしく話すヴァス。そして、腕を掴む手にこもる力。


「くっ・・・離せっ!!」

「分かる・・・!! 誰だって!! 大事な人、大事だから・・・!! 今、失うのが怖い。なら、もう止められないから!! どんな事してもって思うの、わかるから・・・!」


 手を掴まれたのは、ファローにとっては痛かった。ファローの弱点は、『特殊能力』で補わなければならない程の非力さだ。補ってしまえば無いに等しい弱点ではあるが、突かれてしまえば取り返しようのない弱点だ。

 ヴァスの力は、純粋に強かった。もどかしげであっても、その決意に迷いは見えなかった。


「今失うのが、怖いから。だから・・・

 だから、ダメなんだ。

 だって・・・


 俺も、大事だから」





 ・・・・・・


 

 『それ』が来たのは、その時だった。

 なぜ、この瞬間だったのだろうか。



 後一日早ければ、手遅れになった女性がいた、という話を耳にしただけで終わったろう。

 後一日遅ければ、旅立っていたリドルやヴァスになすすべはなかったろう。


 けれど。


 この瞬間だったのだ。




 それは、誰もに諮りつくせぬ幸運と言えたのかもしれない。





 ティナは、目の前が真っ白になった。



「・・・かふっ」


 そんな小さな咳のような音とともに、ティナは・・・

 血を吐いた。



『あの子に、将来なんてねえよ』


 そう、別の場所でリドルに告げられた、実の父の言葉。

 それをティナが聞くことはない。


 くずおれるティナ。とっさに口を覆ったが、血はまったくせき止められていない。むしろ口の周りに大々的に広げる結果となっている。それでもそれ以上は広がっていないのが、吐血さえ弱々しいのを感じさせる。胸のあたりの赤が少しずつ染みてゆく。小さく震える肩の揺れが、消える。


「「ティ・・・ナ?」」


 違う場所で出会った二人が、同じように名を呼ぶ。

 告げてない事を知らないのは、当たり前の事で、驚くのは無理はない。


「てな」

「ティナっ!! どうした!! どういう事だこれは!? 

 一体お前、どうしたんだっ!!!!」


 二人とも、何度も見てきて、そのたびに心を抉られたそれを思い出す。

 人が、死ぬ場面。


 事故か、病気か、血か、脳か、骨か。筋肉か、神経か、血管か、抗体か。腫瘍か、肺炎か、ウイルスか、細菌か。

 何が原因だろうが、同じ事が一つある。


 死の向こうには、未来がついえているという事実。

 

 子を生したなら、紡がれたと言ってよいだろう。作り上げた物があるなら、描いたものがあれば、残ってゆくかもしれない。託した教えや思いがあるなら、それが受け継がれ、社会を変えてゆく事さえある。

 それでも。

 

 死した者とは、共に歩む事は出来ない。

 どこへ行く事も、思いを重ねる事も、磨きあう事もかなわない。

 その生きざまや過去から何を知り、学び、心にいくら止めおこうとも。


 変わりゆくその先を、同じ時の中を生きていく事は出来ない。

 だって、もういないのだから。


 親しき者なら、愛する者なら、失えばその傷は恐ろしく深く、それゆえに失う事は、時に自分自身が失われるよりも恐怖を覚える。

 人が一人では、自らの意味さえ見失うのなら、それは大仰な表現ではない。

 ならば。


 どんな事をしてででも、死を遠ざけたいと思う。

 どんな事を。




 他人の命を、奪ってでも。




 人が人を殺してでも得たい事。

 人が生きてゆく事。




 誰にも罪などない。怯えているだけだ。

 生きていきたい。せめて、老いる程度までは。

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