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アムリタはめぐる  作者: おかのん
第2章
12/28

ファローの手段とアムリタの在処

「・・・ごめん。その・・・ 眠る気、なかった」

「いいもーん。当の聖五種族様からすれば、退屈な話だったでしょ」


 教会でのティナの授業中、ヴァスは後半居眠りをしてしまった。壇上に立つ者からすればまあ、面白かろうはずもない。

 その刺々しく思えるセリフとは裏腹に、声の調子は明るさがある。拗ねて見せているという小悪魔的な可愛らしさだが、もう落ち着きを見せてもいい年齢でそれはどうなのか。それでも似合わない事もなく思わせる、浮世離れした雰囲気があるのが不思議である。


「ティナ・・・」

「つーん」


 ヴァスにしてみれば、講義というものがそもそもよく分かっていない。子供用に噛み砕いてあるにも関わらず、知らない単語も多かった。何より、伝えるという事に込めた思いをそのままうつす優しいトーンの、ティナの一言々々が耳に心地よかったために、誘われるように眠りに落ちていったのである。退屈である故に眠りを誘うそれとは少々質が違った。それをうまく伝えられる語彙はヴァスにはない。


 そして。


「確かに」


 道徳混じりの民俗学の基本中の基本である単位の講義。


「あたりまえの話ばかりで、つまらん講義だったよ。まあ、子供相手である事を考えればあれで正解なんだろうが」

 

 !!


「「ファロー・・・!!」」


 座っていた木の枝から飛び降り、ファローはゆっくりとこちらとの距離を詰めてくる。母親のように前に立とうとするティナ。さらにその前に出るヴァス。


「ティナ。退いていろ」

「・・・少し話を聞いたわ。でも、ファローが二人と争っている理由が分からない」

「『アムリタ』の事は聞いたのか」

「・・・『アムリタ』?」


 疑問符を浮かべた顔をしているティナ。ヴァスはどんな顔をしていいかわからないでいた。それで、話していない事を察したファロー。

 あの話を聞いて、抱く感想はさまざまだろう。話すべきかどうかは二人の勝手だ。ファローは自分の言いたい事だけ言う事にした。


「・・・ヴァス。サンプルをよこせ」

「さんぷ・・・る」


 聞いた事のない単語だったらしい。


「少しだけでいい、アムリタを分けてくれ。私は私でアムリタを研究する」

「!! ・・・ファロー」

「もう、お前達の・・・要領を得ない話はどうでもいい。いくら考えても私にはわからないし、分からないように話しているのが分かるだけだ。それよりも。

 一時遅れれば、その間に命を落とす人がいる。総人口あたりで病で死ぬ人間は5分あたりで何人か知っているか。・・・アムリタの力は、今必要だ。いずれでは駄目だ」


 結局結論はリドルの言っていたとおりである。ヴァスは複雑だ。あの説明ではそうなるだろうし、かといって、他にどういえばいいというのか。


「よこせ」

「・・・出来ない」

「分けてもらえれば、それでもうお前達には関わらん!!」

「出来ない!!」

「是が非にでも、渡して貰うっ!!」


 そう言って、ファローは間合いを詰める。左側にしゃがみ込んで、正中線が・・・急所が総じて隠れる角度で、腹部を狙う。飛び退くヴァス。しかし、しゃがんだ状態で繰り出した拳はフェイクだ。そのまま立ち上がるようにして正拳。飛び退いた筈がもろに食らう。


 「ぐッ・・・!!」


 ファローは医者であると同時に拳法家である。人体を知りつくし、筋肉や骨格の動きが感覚で分かる。ハーフエルフの、どうしても人より若干落ちる体重や筋肉量は、いかに効果的に体を使うかで補う。


「はああっ!!!」

「ぐぁあっ!! がっ!!」


 ファローの動きは、恐ろしいほどにトリッキーで、まったくつかめない。ヴァスは野生の感覚でかろうじて防げるだけだ。

 

「『反床撃・天旋』っ!!!!」


『反床撃』

 ハーフエルフの強い魔力を接近戦オンリーの拳法家が効果的に利用するために、ファローが編んだ魔法である。

 効果だけ言えば、『自分の任意の場所(自分の体のどこかに限る)に、瞬間(最大1秒)壁を作れる』ようなものだ。これだけ聞いてもピンと来ないかもしれないが、例えば、横に飛び退く時に足だけよりも手でも壁を押せたら。また防御をするときに壁一枚あれば盾になる。衝撃を瞬間的に出すために重さが全くない。しかもどこにでも出せる。出す時には体のどこかからだが、出てしまえば空間に固定されるため、敵の攻撃は完全にシャットアウトされる。

 さらに、足から出せば空を蹴れる。空中戦が可能なのである。

 しかも、飛び蹴りの途中でさらに空を蹴れるので、威力は地上にいる時以上。ただ単に浮かぶ、飛ぶという浮遊の術とは違い、壁や床を蹴るのだから、その空間的なスピードとトリッキーさは他に類を見ない。初見で対応は絶対にと言っていいほど無理な格闘術だ。


 「『縮地』『分け身』!!『千撃』っ!!!」


 二段跳びなどという奥義でもなんでもなく、まさに空を蹴る事で『地』を『縮』する。そのタイミングをずらす事で残像を見せ、『分身』を錯覚させる。『千撃』など、要はただのタコ殴りである。ちなみに『天旋』は、軸足の方に壁を作って繰り出す廻し蹴りだ。その威力は通常の回し蹴りとは比べ物にならない。


「うあああああっ!!」

「ファローっ!! やめてぇッ!!」


 使命に燃えるファローには、ティナの言葉は届かない。

 ヴァスの首を締めあげ、木に叩きつけ。


 ヴァスの体をまさぐる。


「どこだ・・・どこにある!? 『アムリタ』は・・・ どこだっ!!!」

「あ・・・ ぐっ・・・!」


 タンクトップのようなもの一枚と、作業用の硬めの布地のズボン。物を隠しておく余地はあまりない。だが、ファローにそれらしいものは見つけられなかった。


「どういう、事だ・・・!?」


『アムリタ』とは、何か。

 

 

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