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三
「ただ…なんじゃ?」
「はい。これを受けるにあたり、わたくしは一つ条件があります」
椿は耳をたよりに声の音源の方を向く
「条件じゃと?申してみよ」
「…わたくしか、他国の姫君かを正式にご決定なさるまで、失礼とは重々承知致しておりますが、わたくしに触れないで下さいませ。もちろん、床を共にすることも」
義影が顔をしかめるのがわかった。けれどここで引くわけにはいかない。
「………小国の姫が、わしに命令か?」
「いいえ。命令ではありません。お願いでございます」
「なに?」
「もし選ばれなかった場合、わたくしは国に帰ります。けれどそのとき、大国とはいえ一人の殿方に抱かれた娘を…もしあなた様ならどうなさいますか?」
……自分の恥として、自ら手にかけて殺すか
縁を切るか
義影は迷うように唸り、言った。
「――……よかろう」
「有難うございます」
椿はもう一度深々と頭を下げた。




