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一
羽間の国主、巽義影はでっぷりと太った体を肘かけに傾けて座っていた。60を過ぎてたるんだ肉体、皴でいっぱいの顔。
それらは椿には見えない。
だが、椿は目が見えないのを補うかのように耳がよかった。 話す声音で相手の心情や微妙な変化を察し、周りの空気、雰囲気を感じとる。 一度話した相手はほとんど間違えない。
「おうおう、よう参られた。噂に違わず麗しい姫君じゃのう」
義影の声からは、自分を舐めるような目で見ている姿が容易に想像できる。 椿は鳥肌がたつのを感じたが、さらに深く頭をさげた。
「もったいないお言葉、有難う存じます」
「よいよい。博巳の姫よ、実はそちにまだ話し てないことがあってな」
「……?なんでございましょうか」




