笑い
「椿、そなたを我が側妻とする」
景政は義影の言葉を無表情に聞いた。
―――――まさかとは思ったが、本当にするとは…
袖の下で握った拳に力が入る。
この男はどこまで愚かなのか。
義影の前に座る椿をそっと盗み見ると、表情こそ隠しているものの顔色は今にも倒れそうなほど白い。「側妻」の二文字がこの時世、正統な血筋の女性にとってどれだけ屈辱的な地位かなど、ここにいる誰もが分かっている。
しかも名指しした相手は、各国も認める由緒ある博巳の一の姫。
当然、側近たちが諌めにかかる。
「な……何をおっしゃいますか殿!!この方は博巳の姫君にございます!側妻など言語同断です!!」
「博巳を側妻になど…た、たとえ我々が許しても、お国の博巳をはじめ近隣諸国が許しませぬぞ!否、我々だとて許しませぬ!」
「お考え直しを!殿!」
側近たちの必死の諌めに対し、義影は面白くないとでも言うように言い放った。
「わしはお前たちの意見など聞いておらぬ。血筋血筋と騒ぐが、博巳など今となってはただの小国。許すも許さぬもないわ。今現在一番力を持ち豊かなのは我が国。わしじゃ。異論は聞かぬ」
横柄な態度を崩さない義影。
もう、何を言っても無駄だと悟った諦めの早い側近たちは、視線を隣に移す。それに気付いた義影は嘲笑うように、皆の視線の先の人物、自分の息子を見た。
「ハハハ、こやつに救いを求めるか?二十歳を超えたというに、いつまでもふらふらと遊び回ってはろくに政にも興味を示さぬこの馬鹿息子にか?」
誰もが口を閉ざし、室内は静まり返った。
「のう、景政……お前はまこと……母親にそっくりじゃのう」
「殿!!」
非難する爺の声。家臣たちは顔を強張らた。そして…
それまで我関せずと黙ったまま無表情に成り行きを見守っていた景政が、ちらりと目線を義影に移動させた。
―――――――しん…
たったそれだけの動作。
「今日は」
誰もが黙る。
「随分と口がお達者なようですね………―――――父上」
この瞬間、
景政はその場の空気を自分のものにした。




