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六
―――…景政様が…?
「毎日毎日同じ場所で、自分の嫁候補と私が会っているという話を…もしあの男が聞いたら───どう思うだろうな」
『わが父上は負けず嫌いな上に独占欲が強くてな』
椿は先程の景政の言葉を反芻した。
「……仕組んだのですね」
そう、全ては彼の計算だった。
わざと人目がつかない場所を選んで琴菊と会い、密会を重ねる。
しかし琴菊は大国の姫とはいえ、嫁候補。
今現在、この城の中では椿と共に琴菊は否応なしに目立つ。
言葉のひとつひとつも
────不自然な行動も。
義影の耳に入るまで、そう時間もかからなかったことだろう。
「………」
なんのために、とは聞かなかった。
椿には彼の意図がわかったから────。
「案の定、あの男は姫君を寵愛しだしてくれた」
ここ最近の義影の振る舞いは、実の息子にあてつけるためだった。
─────そして
「このまま───お前の存在が忘れられれば…」
義影が琴菊に執心すれば─────。
椿に回された腕に力が入る。
「………景政様…わたくしは」
変わらず自分を想ってくれている、その気持ちだけで十分………そう言おうとした。




