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五
「顔が紅いぞ」
「……~~ッ…知りません!」
腕を払って離れようとする椿。
しかし
グイッ!!
思いがけず強い力で引かれ、椿はよろけて景政の胸にぶつかった。
そして捕まえたと言わんばかりに、再び長い腕が椿の肩や腰に絡まる。
「…ッもう!離し」
「最近」
「え?」
突然話し出した景政。
「最近、あのブ…父上に無視されているようだな」
―――…?
「美和の姫君がお気に入りだとか」
景政は何を言っているのだろう?
「無視…かはわかりませんが…そのようです」
「椿、私が姫君と話していた内容を覚えているか?」
また話を変えられる。
椿はわけがわからないまま答えた。
「…?…明日も…ここを通るとか…おっしゃっていたような…」
「そうだ」
景政の声に喜色が混じる。
「だが姫君は“明日”だけじゃなく、“その次の日もずっと”通った。もちろん、私も」
――――……?
「どういう…ことです?」
クスっと景政は笑った。
「わが父上は相当の負けず嫌いな上に独占欲が強くてな。……それも息子…この私に対しては特に、な」
椿は景政の言わんとしていることをうっすらと感じ取った。
「…………まさか…」




