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四
ゾクッとした感触を椿は軽く叩いた。
「景政様!」
真面目に聞いてくださいと言う椿に、景政はクスクス笑うばかり。
「怖いな」
そう言いながら手は着物の中から引っ込められたが、椿は再び後ろから抱きしめられる。
「ひと月前がどうした?」
「………渡殿で…景政様のお声がしました」
背後で彼が“?”と首を傾げる気配がした。
―――…覚えていらっしゃらないのかしら
無意識に声が刺々しくなってゆく。
「琴菊様のお声もしましたわ」
ああ、と納得したような声が聞こえる。
「見ていたのか」
「“聞いて”いました」
景政の態度に椿は嫌味な言葉を返してしまい、しまったと少し後悔した。
「………」
シンとして何も言わない景政に、椿は不安を覚える。
「………景政…様…?」
そろりと背後に顔を向けると────
「妬いているのか?」
―――――………。
「…は?……な…ッ!!」
椿が一瞬意味を理解しかねたが、すぐにぶんぶんと首を振る。
しかし景政は
「そうか、それは悪かったな。だがお前が妬いてくれて私は嬉しいぞ」
クスクスと楽しそうに笑う景政とは反対に、椿の顔は耳まで紅く染まる。
「ちッ…違いま…景政様!!」




