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羽間へ
それから数週間。
椿は小さな籠に乗り、生まれ育った城を後にした。 夜 明け前の旅立ち、日が落ちてからの到着。
一日がかりの旅を終え、椿は乳母と共に城内に入った。
一国の姫君の輿入れとしては、ありえない質素さ。
乳母は目の見えない椿の手を引きながら城内を歩く。
「染乃……城の中はどんな様子…?」
椿は乳母の染乃にしか聞こえないくらいの小声で言った 。
「とても…大きゅうございます…。壮大な造りですわ。 調度も何もかも素晴らしいもので、目がくらみそうです …。」
染乃の声初めて見る大国の城に、心なし震えているようだ。
「そう」
椿は自分も見てみたいと思った。きっと今の季節、庭の木々も綺麗なのだろう。
*
「博巳より参りました、芳賀秀次の娘、椿にございます 。この度は我が父をはじめ博巳にはもったいないお話、 まことに有難うございます。身に余る光栄です」
椿は三つ指を揃えて額がつくほどに深く頭を下 げる。




