一
――――……琴菊様は美和からの大切な貴賓。息子の景政様が親しくされるのは当たり前のことだわ…。
でも…
琴菊が彼を好きなのは事実。
――――…嫌…
「姫様?」
「え?!……あ…ええ、そうね…じゃあ散歩を少し」
「それがよろしゅうございます」
椿は染乃に手を引かれ、外の庭園に出た。
*
広大な庭園を、椿は染乃に手を引かれながら歩く。
「静かね」
「ああ………なんでも今日は上様が………狩りに、お出かけになっていらっしゃるそうで……」
「狩り……?……そう」
染乃は何も言わないが、椿は一瞬彼女の握った手に力が入ったのを感じ、悟った。
―――…狩りに行かれているのは義影様と、琴菊様……
「染乃、いいのよ」
「姫様」
「狩りなどわたくしには行けないわ。殿方のお帰りを待つだけと言っても、わたくしは狩られる動物のことを考えてしまうのよ」
椿はクスリと笑ってみせたが、染乃はため息をついて非難を含んだ声で言う。
「それにしましても、ここ最近の上様の姫様に対する態度は冷たすぎます。この前の管弦楽の会にも先日の茶会の席にも琴菊様だけがお呼ばれになって…」
「染乃。それ以上は」
「ですが」
「上様にも…お考えあってのことなのよ」
そう。ここ一ヶ月、義影は事あるごとに椿を無視するかのごとく琴菊ばかりを呼び続けた。
椿にとってはうれしいことだが、乳母である染乃は本気で心配していた。




