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惑い
宴から三ヶ月
日々は刻々と過ぎてゆく。
しかしこのひと月、椿の心は晴れずにいた。
「姫様……室にばかり篭っていてはお体に悪うございます。少しは外にもお出になりませんと」
「………ええ」
体を動かさなければとはわかっているが、本当は室から一歩も出たくない。
―――……西の廊になど近付かなければよかった…
ひと月前のあの日
西の廊で染乃を待っていたとき
『景政様』
『…琴菊姫?』
聞こえたのは二人の声
『先日は素晴らしい演奏を拝聴でき、うれしゅうございました』
『独学ゆえ、自分でも粗さが目立ちました。まだまだですよ』
『まぁ…ご謙遜を』
『姫君の和歌こそ素晴らしかった。父も賛辞を送っていましたね』
『………………』
『琴菊姫?』
『……あの歌は、あなた様のことを歌ったんです…』
『…………私を?』
長い沈黙。
『……琴菊姫は、いつもここを渡られる?』
『……いつもではありませんが……よく通りますわ』
恥じらうような琴菊の声
―――――…ッ。
椿はその場から立ち去った。




