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四
「朔、今“東”と“西”へ動けるか?」
「どちらも跡目争いのさなか。たやすいかと」
淡々とした声はまだ若いが、そこに感情は見えない。
「ふん…跡目か…。よい。では文をしたためる故、それを渡してきてほしい。直接、だ」
景政はすぐに筆をとり、硯に浸す。
「どなたに」
景政は再び筆を走らせる。
「下の"狐"に渡してこい。上の熊は、物分かりが悪い」
「東はいかがされますか」
「とりあえず、風力と風向きを見て来い。それと"黒狼"にこれを」
景政は筆を置き、したためた文を持って軽く腕を上げる。
「頼んだぞ」
「御意」
行燈の火がゆらめき、文は景政の手から消えていた。




