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七
―――景政様は何故…
何故こんなことを言い出したのだろう。
琴菊の景政への気持ちに気付き、椿は憂鬱になっていた。
――――…宴会の席でこんな顔をしてはいけ ないわ…
気付くのではなかった。こんなとき、敏感過ぎる自分が嫌になる。
「……………」
「お次を………椿様どうぞ?」
「……………は、い‥」
どうしよう…。
焦りで嫌な汗がつたった。
どうすれば………
横笛…
恋曲
「月影想歌」
………古曲
……月…?
―――――――…あ…。
そうか。それで…!
椿は景政のもうひとつの意図を察し、顔を上げた。
「では、わたくしは歌を」
「わたくしと同じく和歌を詠まれますの?」
「いいえ」
探るように尋ねてきた琴菊に、椿は首を振った。
「和歌ではありません。“歌”でございます」
ざわっ…
「「「歌?」」」
室内には静かにざわめきが広がる。
椿は精一杯微笑んで言った。
「曲は“弦歌譜”より、歌曲『佳月夢想』」
景政が少し微笑んでくれた気がした。




