六
「おお、よい考えじゃ。お前もたまには気の利いたことを言うではないか。そなたたちの得意なものでよいぞ。何かしてみせよ」
どうやら義影は上機嫌で乗り気だ。
――…何かと言われても…一体何をすれば…?
目のことを気づかれないような何か━━━何があっただろう?
椿が戸惑っていると…
「…では、わたくしから」
琴菊はたいして動揺もしていないように言った。
「わたくしは和歌を詠ませていただきます」
――――……和歌…。
琴菊は堂々と言葉を連ねる。彼女は緊張していないのだろうか。
「ではわしのために歌ってもらおうか」
「光栄に存じます」
しばしの間。
そして
琴菊は短く息を吸って、通る声でゆっくりと詠み始めた。
━━━けふという良き日に出逢いし吾が君 に……
『今日の良き日にあなた様と出会えたのは運命でございましょうか
この心が騒ぐのを一体誰に止められましょう…』
詠み終わった琴菊は可愛いらしい声で「いかがでしょう」と言った。
即興で作った歌に…自分のことを詠んだと思っている義影は琴菊を手放しで褒めた。
しかし
―――…琴菊様…。
椿は直感で気づいた。
彼女の歌の気持ちは、義影に向けられたものではないことに。
“吾が君(愛しき人)”とは、彼女の向かいに座る景政のことだと…。




