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一
琴菊の言葉の端々からは椿に対する優越感がうかがえた。
「それにしましても…羽間の将軍様も面白いことをなさいますわ…そう思いませんこと?椿様」
「面白いこと……ですか?」
「だってそうでしょう?あなた様のお国と、わたくしの国…どう考えても勝負など見えておりますのに」
可愛いらしい声に反する嘲り。
笑いを含んだ琴菊の言葉に、椿は自分よりも背後の空気が張り詰めたのがわかった。
「…姫様を侮辱なさると?」
低く言葉を紡ぐ染乃。
しかし琴菊はコロコロと笑った。
「本当のことを言ったまでですわ。もうおひと方姫君がいらっしゃると聞いて、わたくし気を張って参りましたのに…確かに椿様はお美しくありますけれど、今の羽間が求めているのは権力ですのよ」
「何をおっしゃりたいんですか」
「染乃」
椿はたしなめるように乳母の名を呼んだ。
琴菊は変わらぬ天気の話しをするかのような口調で続けた。
「血筋だけが誇りの方々は、お帰りあそばせ」
―――……。




