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五
景政の手を頬に感じた。
伝う涙を唇で拭われる。
慰めるように椿の頬に、唇に口づけを落とした。
「私にはお前の気持ちを知ることができない」
「………」
「軽々しい言葉で慰める気もない」
だが、と彼は続けた。
「私も…お前の瞳に私を映してほしい」
「景政様…」
「もし病が治れば……お前の目に、この世はどんな風に映るのだろうな」
椿の艶やかな髪を何度も撫でながら、景政は低く呟いた。
明け方
景政の去った室に、椿は一人座っていた。
想いが通じた喜びと
もう会えないかもしれないむなしさ…。
一夜だった
けれど
「わたくしは……素敵な恋をしたのよ」
味わったことのない感情ばかりだった。
あんなに嬉しかったのは初めてだったかもしれない。
そろそろ染乃が起きる。
彼女には気づかれてしまっただろうか…?
気持ちを改めなければ。
―――…涙を見せるのは
あの方にだけ。




