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逢瀬
――。
部屋の前で音が止まった。
椿は囁くほどの小声で言った。
「……景‥政…様…?」
「…なんだ、もうばれてしまったのか」
苦笑を含んだ小声が返ってきた。
「………ッ」
ずっと聞きたかった声。
「景政様……!!」
椿は無意識に両手を伸ばす。
景政は後ろ手で障子を音なく閉め、伸ばされた椿の白い手に自らの両手を絡めた。
「椿…」
「景政様……なぜ…」
絡めた指に柔らかな感触がした。椿はもうこれを知っている。
「会いたかった…。再びお前に触れたかった」
ぎゅっと抱きしめられた瞬間、景政の香の香りがした。
衣ごしに感じる体温。
「…わたくしも……ずっと…お会いしたかっ た…」
「椿…」
「忘れなければいけないのに…いつも思い出して考えてしまうんです」
「私もだ」
苦笑する景政の声に、椿は首を振る。
「考えたくないのに、嫌なことばかり考えてしまって…。もうどうすればいいのかわからなく て…ッ…」
染乃にも見せなかった涙。
自分はどうしてこの人に見せているのだろう。
「椿…」
優しく呼ばれた自分の名。
彼の手が今は頬に感じられる。




