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三
一日……また一日と月日は過ぎて行く。
*
「染乃………もう一人の方はいつ来られるのかしら…」
椿が羽間へ来て、もう一月以上過ぎていた。
「そうですわね…いささか遅すぎる気がいたしますわ…」
何も知らない博巳の父のことを考えると、他国の姫などこのまま現れないほうがいいのかもしれない。
でも
今の椿には………
―――……もしこのまま…来られなかったら…
必然的に妻としてめとられるのは、自分。
椿は小さく息を吐いた。
――…景政様はこの城のどこにいらっしゃるのかしら…
目が見えなくてよかったのは、城の中を歩いていても顔を合わすことがないこと。
この一月で、もしかしたら彼と会ったかもしれない。
早く忘れたいのに
なぜか気持ちは日を追うごとにつのる。
会いたい
話したい
もう一度触れたい
触れられたい…
今思えば心地よかった、あの未知の高揚感を…
そこまで考えて、椿はハッとして顔をあげた。
―――……殿方に触れたいなどと…私はなんてはしたないことを…!
椿は赤みのさした頬を押さえた。
胸の鼓動はおさまらない。




