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六
―――………。
景政は部屋に入って椿の前に腰をおろした。
「……一体‥」
“何をおっしゃているの?” その一言が出ない。手のひらが汗ばんできたのがわかる。
彼は一体……。
「違うか?」
尋ねてはいるが確信を含んだ声の響きに、椿はようやく頷いた。
―――……こんな事、初めてだわ。
「……なぜ、おわかりになりましたの?」
後ろに控えている染乃が顔を真っ青にしているのが想像できた。
「人の顔から目をそらさない娘だと思っていたら、瞬きひとつせずに一点を見つめるようにしているから……もしかしてと思ってな。あとは勘だ」
「……そうでしたか」
椿は小さく息を吐いた。そしてもう必要ないと思い、見えない両目を閉じた。
「やはり完璧を装っていても、ボロはでるものなのですね」
椿の遊びに負けてしまったような口ぶりに、景政は小さく笑った。
「私も最初は全く気付かなかったぞ。これだけ躊躇なく直視して、まさか見えていないとはな」
景政の言葉からは感心したものと、笑いを含んだものの二つが感じられた。




