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二
「今日は何をお描きに?」
「そうね……“私”を描こうかしら」
椿は口元に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
――………重なり合う花弁……深緑の葉…
椿は『目が見えていた頃』の記憶を辿る。
「どう?ズレてない?」
「はい。お上手でございますよ」
染乃の言葉に椿は口元をほころばせた。
「色水を」
「はい」
椿は先程描いた絵の位置を思い出しながら、丁寧に色をつける。
それからしばらく何枚か描き続けた。
桜、山茶花、牡丹、藤……。
カタン、と筆を置いた椿に染乃は声をかけた。
「もうよろしいんですか?」
「ええ。やっぱり定期的に思い出さなければ、忘れてしまうわね」
――……もっとたくさん、花を見ておけばよ かった。




