植物園で出会った貴婦人
お題
『水曜日』の『植物園』で『呼び止める』
含まなければならない言葉
『花』『心』『虫』
文字数
700文字(±10文字)
「あの、すみません」
水曜日の植物園。
いつも通りに見回りをしていた私は、先程から同じ植物を見上げていた女性を呼び止めた。
「はい。何でしょう?」
女性が振り返る。
整った顔を彩るスタイリッシュな眼鏡、ゆったりとしたカーディガンにストールを羽織った貴婦人の姿が私の目に映った。
「いや、特に用事があったわけではないのですが……先程から同じ植物ばかり見ているので。何か気になるものでもありましたか?」
「まあ、そうでしたか。気になるというものはないのですけど、植物って本当に素敵ですよね」
女性は視線を外して、再び自分の背丈よりも高い植物を見上げる。
「素敵、ですか?」
私も女性に倣って、青々と伸びる植物を見上げてみた。
太陽の光を一杯に浴びて、伸び伸びと育つ植物。
周りにも恩恵を与え、自らも存在を誇示するその様は、確かに素敵と言えるかもしれない。
「ええ。植物は本当に素敵なものです。花を咲かせては周りを楽しませ、実がなればそれを私達に与えてくれます。植物もまた、心を持って生きているものなのです」
「良いですなぁ。我々のような者にとっては何よりの褒め言葉です」
私は素敵な事を聞かせてくれた女性に深々と頭を下げた。
「まあ、そう感じていただけたのでしたら嬉しいですわ。それでは、私はこの辺で失礼致しますね」
「はい。ご来園ありがとうございました。是非またいらしてください」
「ええ。また何れ……」
軽く会釈をして、女性は出口へと歩いていった。
「はは、あんな感じの女性に出会ったのは何年ぶりだろう。でもこれ――」
私は軽く息を吐きながら、もう一度その植物を見上げた。
「異常発育したウツボカズラなんだよなぁ……食虫植物」
実は奇婦人だったというオチ(笑)