あの日、砂場で出会ったおじさん
これは、まだ俺が小さかった頃の話だ。
俺は幼いながらに疑問に思ったことがあった。
それは、砂場の砂はどれだけ掘り進めることが出来るんだろうか、ということだ。
年齢を重ねていくうちにどうでもいい疑問になっていくわけだが、当時の俺にとっては世界の謎に近いレベルの疑問だったんだ。
最初、俺は手で砂を掘っていた。
砂場の砂は、上の方は全然掘りやすいからだ。
けれど、しばらく掘っていくと質が変わってくる。
手で掘るには固い。
だから俺はスコップを使用し、次の段階を掘り始めた。
ただ掘っていくだけでは駄目だ。
幼かった俺の腕は短い。
だからすぐに限界が来てしまう。
だから、少し広い範囲で自分ごと下に降りていく感じで掘っていけないといけない。
しばらく掘っていると、俺は自分では地上に戻ることが出来ないくらい掘っていたことに気付いた。
その時の絶望具合といったらもう酷いもんだった。
俺はもう二度と家に帰れないんだと思い、ママー! と泣き叫んだ記憶を今でも思い出せる。
そんな泣き叫ぶ俺を助けてくれたのは、知らないおじさんだった。
きっと、近くを通っていた際に俺の泣き叫ぶ声を聞きつけて来てくれたんだろう。
俺にとっては二度と地上に戻れない大穴でも、大人にとってはたいしたことはない大きさだった。
おじさんに抱えられた俺は、無事に地上に生還したんだ。
俺が泣き止むのを待ってから、おじさんは俺に聞いた。
「なんでこんなに大きな穴を掘ったんだい?」
おじさんからしたら何気なく聞いた内容だったんだろう。
でも、俺にとってその質問は、世界の謎レベルの疑問に興味を示してくれたことに等しかった。
だから俺は正直に言ったんだ。
「すなばはどれだけほっていけるのかなっておもった」
てな。
すると、おじさんは俺の遊びに付き合ってくれる気になったのか、
「おじさんに任せな!」
と言って、ポケットから手袋を取り出したんだ。
その手袋は、今思うともぐらの手のように鋭い爪が付いていたように思う。
おじさんはその手袋をはめると、物凄い勢いで砂場を掘っていったんだ。
俺が掘っていたスピードの何倍、何十倍もの速さで。
「おじさんすごい!」
俺はもう大喜びよ。
おじさんは結構夢中になっていて、今度は自分が戻ってこれないレベルの穴を掘っていたんだ。
けれど、おじさんは掘るのを止めない。
どんどんどんどん掘っていく。
その時、俺の母親がやって来たんだ。
「もう何時だと思ってるの!」
たしかそんな感じで怒られたんだ。
そして砂場の大穴を見て、
「え、何この穴!? もしかしてあんたが掘ったの!?」
そんなわきゃないだろ、とツッコみたいところだが、その時の俺は母親に怒られてシュンとしちゃってさ。
で、ここからが怖いんだ。
母親が何をしたと思う?
穴の周りに盛り上がった砂や土を、穴に入れだしたんだ。
子供が掘った穴を埋めようとしてるんだが、俺はそれよりも穴の中のおじさんが心配だった。
でもおじさんよりも、何か言うことで母親に怒られるんじゃないかっていうのが、一番怖かった。
母親は穴を埋め終えると、俺の手を強く引いて公園を出た。
俺はその日からずっと、おじさんのことが頭から離れなかったんだ。
□ □ □
「ていうのが俺の怖かった話かな~」
「え、怖かったのっておじさんが埋められたこと!? それともお前のお母さんのこと!?」
我が家に泊まりに来た友人と、季節外れの怖い話。
俺の話が終わると、友人は即行でツッコんできた。
「え、これフィクションだよね? おじさん埋められたのフィクションだよね?」
「いやいや、実話だって」
「じゃあお前のお母さん殺人者じゃん! おじさん生き埋めじゃん!」
「何言ってんだよ」
俺はそう言うと、テレビの電源を入れた。
画面にバラエティー番組が映し出される。
その番組には、ゲストで1人のおじさんが参加していた。
「ほら、このおじさんだよ」
俺は友人に言う。
最近存在が明らかになり、俺達人類と交流を持つようになった地底人。
あのおじさんは、当時地上の状況を知る為に派遣された捜査員だったのだ。
そして、
「実は俺が人類で最初に地底人とコンタクトをとった男ってわけ」
「なんかムカつく────!」
子供の頃、砂場を掘りすぎて怒られた経験はありませんか?




