祝福の花
事の起こりは、王立学園の卒業パーティーで行われた婚約破棄だった。
当時の王太子であるアルフィリードとその側近たちが平民である精霊の愛し子に永遠の愛を誓い、それぞれの婚約の破棄を宣言。当然大問題になった。
結果、愛し子は家族もろとも西の砂漠地帯に国外追放。側近達はそれぞれ廃嫡され家から放り出された。アルフィリードは王太子の地位を剥奪。罪を犯した王族が幽閉される塔へと送られた。
その後、弟のノクタスが王太子となり、アルフィリードの元婚約者と婚約した。
そこから幾年か過ぎた頃。滞りなく譲位が済み、ノクタスは王となった。妃との関係は良好で、おしどり夫婦などと言われている。去年待望の王子も生まれ、何もかもが順調に思われた。
が。
ここの所少しずつではあるが、王都に張られた結界が薄くなっているという報告があった。魔物への対策は勿論、戦時となれば王都は最後の砦。決して疎かにしてはならない。
学者達に意見を求めると、大気中のマナが減少傾向にあるとの見解だった。しかし、原因は不明。藁にもすがる思いで、ノクタスは塔に登った。
兄は穏やかな人で、学者肌であった。精霊や魔法に詳しく、王よりも研究者に向いている人。そんなイメージがあったから私は——。
「痕跡は?」
「それが……一切見つかりません」
虫も届かぬ高い塔の上。石造りの室内に、兄の姿はなかった。
そこに積まれた干からびた食料から、ずいぶん前に姿を消しただろう事がわかった。
何か情報を持っていないかと兄の側近達の家に尋ねてみたが何も得られるものはなく。彼らも、放逐した息子達の行方は把握していないようだ。
結局、兄の行方はわからず。マナは減少するばかり。どうにもならないのだろうか……。
◇ ◇ ◇
精霊神殿で行われた戴冠式は滞りなく行われた。
ノクタスの在位は十五年と短く、息子を十六で即位させることとなった。
この国は、精霊との距離が近く、古の盟約により五代に一度、精霊王が現世に顕現し祝福を授ける言われている。そのためか、他国と比べマナ濃度が高く、魔法大国とも言われていた。
ノクタスは正直眉唾物だと思ったが、当時の絵画や文献なども残っており、これに縋るしかなかった。
マナは減少を続け、いまやかまどに火を入れるので精一杯である。
ノクタスの息子が丁度五代の節目だ。
夕刻。精霊界と繋がっているとされる祭壇に光が集まる。古の盟約は実在したのだ。
光が収束し、人の形をなす。一瞬光が強く瞬き、収まったその場所に、かつて行方不明となった兄、アルフィリードが立っていた。
最後に見た婚約破棄の時の年齢と変わらぬ姿で。
「ノクタスかい? 久しぶりだね。一瞬誰だかわからなかったよ」
それはそうだ。あれから二一年。兄はなぜ昔のままなのだろうか。
「兄うえ、いったい……」
「即位おめでとう、あでも、もう交代かな? 今日は、精霊王の名代で来たよ」
あの頃と変わらぬ、柔らかな笑顔で兄が言う。
「名代? 精霊王様はいらっしゃらないのですか?」
「だって君たちが家族もろとも国外追放にしたんだろう? おかげで私は第十夫人だよ。身内のお祝いの方が喜ぶだろうからなんて、彼女らしいけどさ。だからこれが終わらないと、彼女と結婚出来ないんだよ」
わけがわからない。新王となった息子は隣でポカンと口を開けている。
「な……え。兄上は、私を恨んでいますか?」
今言うべき科白ではない。頭は混乱したまま、ずっと気になっていた事がポロリと溢れた。
「まさか、ノクタスくらいしっかりしていた方が、王に向いているよ。私はちょっと、策を巡らすとか苦手だからね」
苦笑い。兄は優し過ぎたのだ。だから弟に付け込まれた。
「それに、フィネアとも、相性悪かったし。ノクタスは、彼女のことが好きだっただろう?」
「ご存知だったんですね」
「兄だからね」
あの婚約破棄の日、弟王子が兄王子の婚約者にプロポーズをしたのは有名な話だ。歌劇になる程の人気ぶりだったが、今はそうでもない。マナの枯渇で、王家の支持率は日々下がるばかりだ。
「それじゃあ、長居してもしょうがないし、そろそろ祝福を授けようか」
そうだ、昔話をしている場合ではない。マナの枯渇について嘆願するのが今回の目的だ。
「それに関して、実は——」
「みんなで話し合って、とっておきの物を用意して来たんだよ」
アルフィリードは右腕を高く掲げ、向かい合ったノクタスの背後、精霊神殿の大窓を指差した。
振り向くと外はすっかり更け、宵闇が包んでいる。
ふいに、雷鳴のような大きな音がした。
空に咲いた眩い大輪の花。
「はな……び?」
「綺麗だろう? ノクタスとフィネアは派手なものが好きだったよね。バーンが案を出して、イベリアンが作ってくれたんだ。私からの結婚祝いも兼ねてるんだよ」
廃嫡され追い出された兄の側近達だ。やはり彼らも、精霊界へ渡ったのだろう。
「そんな……」
精霊王の祝福が、こんな。なんのマナも込められていない、ただの花火だなんて……。
「改めて、結婚おめでとう。精霊王とその家族達はこの国に立ち入れないけど、遠い精霊界からノクタスの成功を祈っているよ。じゃあね」
そう言って兄は光となって消えた。
後に残されたもの達は、呆然と祭壇を見つめるしかなかった。
◇ ◇ ◇
この後、国内のマナは緩やかに尽き、大地は枯れ、大気は澱み、人々はなんとか他国へと移動していった。
今は封印されし禁足地として、地図に残るのみである。
問1 精霊の愛し子とはどういう存在か
問2 何故マナは枯渇したのか
問3 古の盟約の内容
出来る限り文章を削ぎ落としたので、ちゃんと内容が伝わっているかの確認用です。他はご想像にお任せします。
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