6話~同行~
「はい、こちらが冒険者証です。無くさないでくださいね?」
そう言われ、私は名前が書かれた小さな木の板をギルドの受付嬢から貰う。
「何か、思っていたのと違う……」
「ははっ、まぁそう思うよな。」
「冒険者は、とりあえずなってみようって奴が多いから
最初はそんなモンなんだよ。」
そう言って、レイスは自身の冒険者プレートを見せてくれた。
「そっちはちゃんと鉄?で出来てるんだね。」
「あぁ、冒険者ランク《ブロンズ》以上になると、ちゃんとした鉄製になるんだ。」
「へぇー、レイスは何ランクなの?」
「今はシルバーだったかな。」
「意外と高いんだね。」
「意外とって何だよ……」
冒険者ランクは下から
《ストーン》
《アイアン》
《ブロンズ》
《シルバー》
《ゴールド》
《プラチナ》
《ダイヤモンド》
《マスター》
と8段階あるみたいで
ランクは加工前の鉱石から貴金属へと価値が上がる順で決められているらしい。
ちなみに私は当然、《ストーン》
「なるほどね、新米冒険者は路傍の石ころと同じってわけか。」
「まぁ、職業柄どうしても荒くれ者が多いからな」
「依頼を受けてそのままばっくれる・・・なんて奴もいるし
ひどい時は依頼主に襲い掛かる奴も居るらしいからな。」
「うわぁ……」
信じられない、といった顔で私はドン引きした。
「そう言った関係で、危険度が高くて緊急性のある魔物討伐とかは
《ブロンズ》以上にならないと受けられないんだ」
「まぁ、しばらくは街の清掃とか、採取をしたりして
ギルドの評価点を上げるしかないな」
レイスの説明を聞きながら私は、質素な造りの木の板をいじる。
「アリサは真面目そうだし、すぐにランクアップできると思うよ」
「ふーん、まぁ地道なのは好きだし、コツコツ頑張るよ。」
そう言って私はもらった銘入りの木の板を握りしめた。
受付から移動し、ギルド内の隅にある大きな掲示板の前に来た。
「ここが依頼が張ってある掲示板だ。」
「あっちの大きい方じゃないの?」
「あっちは《ブロンズ》以上でしか受けられない依頼が張ってある。」
「うぇー……差別を感じる……」
「新米は出入りが激しいからどうしてもな・・・」
レイスは苦笑いしながら、いくつか良さそうな依頼を見繕ってくれた。
「そういえば、レイスは自分の依頼を探さないの?」
「心配だから、慣れるまでは一緒の依頼を手伝うよ。」
「えぇ……?」
なんだか子ども扱いされているみたいでちょっと不服。
「なんだよその顔は……この場所に行けって言われて行けるのか?」
「行けないです。文字も読めないので助かります、ありがとうございます。」
そう、この世界は言葉は通じるが、文字は違うのだ。
レイスは私の言葉を受けると笑って、
「じゃあ、まずはこれをやってみよう」
と言って、一枚の依頼を選んだ―――
―――――――――――――
「いやぁ!助かったよ、ありがとう!」
恰幅のいいおじ様が、お礼を言ってくれる。
レイスが選んだ依頼は、この街の貴族の屋敷の清掃だった。
侍女が不手際を起こしたとか何とかで人手不足だったらしく
清掃の依頼をギルドに依頼したらしい。
依頼額が私の冒険者ランクに対して高額だけど
レイスが居てくれたおかげで、ギルドの審査を通り無事受けられた。
「ほほう、ちゃんと調度品まで綺麗に磨いてくれるとは
中々気が利くじゃないか。」
「お気に召したようで何よりです。」
掃除は嫌いじゃない、むしろ好きだ。
現代の道場に居た頃は、朝早く起きて自主的に道場の床を磨くぐらいだ。
恰幅のいいおじ様は、顎鬚をいじりながら、私の身体に目を向ける。
「ふむぅ、冒険者にしておくには勿体ない、どうだ?私の屋敷で働かんかね?」
「結構です。」
ぴしゃりと断り、
「依頼は終了のようなので、ここら辺で失礼させていただきます。」
そう言って、屋敷を後にした。
屋敷の庭で、掃除をしていたレイスと合流し、そのまま屋敷の外へと急いだ。
「何かあったのか?」
「いや、侍女にならないかって言われた。」
「あぁ……まぁ気にしないでくれ。」
「この世界じゃセクハラは当たり前なの?」
「セク……?は良くわからないけど、女の子の冒険者自体が珍しいからな
そういう扱いを受けやすいって話は聞いた事があるな。」
まぁ、セクハラに関してはこの世界に限ったことではない。
「レイスは出会った頃から、私に対してそういうのないよね。」
「あぁ、まぁ俺には好きな人が居るからな。」
あまりにも平然と言った為、私は反応が遅れた。
「……えっ?好きな人いるの?」
「いるよ、いや、居た、かな。」
レイスは答える時、ほんの一瞬、言葉が止まった。
「あっ……」
まずい事を聞いた、と思い私は気まずそうな顔をする。
「あぁ、悪い、もう随分昔の事だから気にしないでくれ。」
レイスは笑いながら言っていたけど、少し寂しそうな目をしていた。
その顔をみた瞬間、ただの勘だけれど、
―――この人も大切な人を亡くしたんだ……
そう、思った……
初依頼を終えて宿に帰ると、女将さんと看板娘のリンダちゃんが出迎えてくれた。
「お兄ちゃん!おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま。」
リンダちゃんはレイスに頭を撫でられ、すごくうれしそうな顔をしている。
私は女将さんに寄り、ちょっとした疑問をぶつけた。
「リンダちゃんって、レイスの事が好きなんじゃないですか?」
「そうなんだよ、もう半年になるかねぇ……」
女将さんは懐かしむような口調で、
「うちの娘と仲良くしてる男の子が居たんだけどね、」
「ある日、二人で遊んでいる時にふざけて地下水路に潜り込んだ挙句
うちの娘は水路に流されちまったんだよ。」
「えっ!?」
あの魔物がうじゃうじゃいる地下水路に――
私は思わず身震いした。
「その時、レイス坊やがギルドの救助を待たずに単身
地下水路に潜り込んでうちの娘を救出してくれたのさ!」
「すごい……」
あの地下水路を一人で行くなんて、私には考えられなかった。
「それ以来、私は感謝してもしきれなくてねぇ・・・」
「うちの娘っ子も、助けられた時に余程かっこよく見えたのか
それ以来、坊やにぞっこんなのさ。」
女将さんは嬉しそうに言った。
それから、ふと思い出したように、女将さんは、
「そういえば、あの頃辺りからかねぇ、坊やの顔つきが変わったのは。」
「それまでは、うちの宿に泊まる普通の新米坊やだったんだけどねぇ……」
と昔を懐かしむような顔で語っていた。
レイスは私にだけ優しいんじゃなく、ただ性根が善人なだけなんだ……
―――そう思い、私は女将さんと一緒に
リンダちゃんと戯れるレイスを暖かい眼差しで見守った。




