5話~決意~
「すごい……っ!」
地下水路から出ると、そこには綺麗な街並みが広がっていた。
「人、結構多いんだね。」
「そりゃそうさ、ここは『魔法国家ルノーワ共和国』
首都『水と魔法の都・アンスリウム』だからな。」
「魔法の国?」
「そう、魔法の国。魔法を使った技術が発展してるのが特徴だな」
レイスの言葉に、私は思わず周囲を見回した。
水路では、商売用の小舟が行き交っており
魔法を使用して移動しているのか、私の世界では考えられない動きをしている。
丁度、すぐ傍で買い物客が果物を買おうとして、貨幣を差し出すと、
それが浮き出して商人の手に渡り、舟の中から果物が浮かび上がって客に届いた。
まるで手品を見ているみたいだ。
街を歩いていると、周りは見た事のない物ばかりで、好奇心が沸き心が躍った。
「すごい!水綺麗なんだねぇ……
私が暮らしていた国も水が豊富だったけど、ここまで水が綺麗じゃなかったよ。」
「この街の水は、北側にある山の水を魔法で浄化して流してるらしい。
同じ技術で生活排水とかも浄化して湖に流してるとかって言ってたかな。」
「へぇー、魔法って便利なんだねぇ」
「扱うのは才能が必要だし、覚えるのも大変らしいけどな。」
「レイスは使えないの?」
「俺は《魔力》がないから使えないよ。」
「でた、《魔力》……」
「あぁそういえば説明がまだだったな・・・まぁ落ち着いたら話すよ。」
そう言って私達は街の中心へと歩いていく。
しばらく歩くと、広場と思わしき場所に出た。
今まで歩いてきた道は、横に二人並ぶだけで人が通れなくなるほどの狭さだった。
水路には柵もなく、ちょっとした拍子に落ちるんじゃないかとヒヤヒヤした。
「まずは冒険者ギルドに行って、報告を済ませよう。
君の友達の件も聞いてみるよ。」
レイスにそう言われ、私はアキの事を思い出した。
―――アキがこの場に居たら、すごく喜んだだろうな。
ふと、そう思い、胸が苦しくなる。
(でもまだ死んだと決まったわけじゃない……)
私は頭を振って、気持ちを切り替えレイスの後を付いて行く。
しばらく歩くと、広場と思わしき場所に着き
その中でも一際大きい建物へと向かう。
ガランガラン!と言う鈴の音と共に
木製の大きな扉を押し開くと、中には大勢の人が居た。
「わっ……」
いかにも戦士といった、体格の良い男性にぶつかりそうになる。
「本当に別世界に来たんだなぁ」
ギルドの中には様々な人がいる。
耳や尻尾が生えた亜人のような人は見かけなかったが
どう見ても現代では見ることのできない
奇抜な髪の色や目の色をした人が沢山居た。
「あ、ごめんね」
そう言って、脇を通ろうとした少女に道を譲る。
ギルドの中でも一際目を惹く
ワインレッドの髪の色と、宝石のように透き通った赤い色の瞳を持つ少女。
「綺麗……」
思わずそう呟くと、少女は振り返る。
少女は何故か驚いたような顔をし
「私が見えるんだ、いい目を持ってるね。」
「えっ?」
良く聞こえなかったので聞き返すと、
「ふふっ、お姉さんも、綺麗だよ」
そう言って少女は消えるように扉の外へ出て行った。
「アリサ、どうかしたか?」
「うぅん、ごめん、今行くね」
そう言うと、私はレイスの後を付いて行く。
――――――――――――――
「やっぱり……厳しいよなぁ」
喫茶店のテラス席のような場所に座りながら、レイスは呟いた。
ギルドの受付で
私と同じ制服を着た人を見かけた報告はないかと聞いたが
今の所、情報はないとの事。
捜索願を出したかったが、ギルドに依頼するとなると結構な金額が必要な上、
私が遭難した場所は魔物が多くいる場所らしく、捜索難易度も高いらしい。
「大鼠が二十匹程の群れを作るのは珍しい
そのおかげで大体の場所は絞れるんだが……」
「そうなると巣の攻略になる関係上
複数パーティーで行くことになるから料金が跳ね上がるんだよなぁ」
レイスは低く唸るようにして悩んでいる。
ギルドの受付嬢さんも
私の境遇を知り、ギルドに居た複数のパーティーに話を聞いてくれたが
どれも空振りだった。
「ありがとね……色々手伝ってくれて。」
レイスが色々助けてくれたおかげで、ギルドでの受け答えもスムーズに進んだけど、
結局、お金という現実に直面し、渋々諦めることになった。
「すまない――」
「謝らないで、こんなに良くしてくれてるんだから。」
「それに、まだ希望はあるからさ……」
一応、地下水路は魔物討伐依頼や貴重な採取物があるおかげで
冒険者が頻繁に出入りする。
そして私の着ている制服は
この世界ではとても目立つため、時間が経てば発見の報告も期待できる。
気休めだけど、まだ希望はある――
しばらくすると店員さんが、この世界のコーヒーとケーキを持ってきてくれる。
一口食べてみると、私の世界の物と遜色なかった。
(そういえば、今更だけど言葉も通じてるんだよね……)
所々共通点がある事を不思議に思いながら、ケーキを食べ進める。
ふと、正面のレイスを見ると
食器の扱いに慣れていないのかケーキを上手く食べられず崩していた。
私の視線に気づくと、レイスは気まずそうにしながら
「うっ……俺は孤児だったから
こういう洒落た物を食べる機会がなかったんだよ」
「――ふふっ」
私はくすっと笑い、レイスに食器の使い方を教えてあげた。
喫茶店で軽食を済ませると日が傾き始めていた。
「そろそろ宿に行こうか、俺の泊ってる宿の女将さんは優しい人だから
事情を話せば泊めてくれると思う。」
レイスはそう言って、街の路地を歩いていく。
この街を一日歩いて、はっきり分かった。
ここは、迷路みたいな街だ。
いくつか区画があるみたいだけど
覚えるまでは下手に出歩くと迷って出てこられなくなりそう。
そんな事を思っていると、目的の宿に着いた。
「女将さーん!いるー?」
レイスが大きな声で呼ぶ。
「はいよー!今日も無事に帰って来たみたいだねぇ!」
女将さんの元気で暖かい声が響き渡った。
「おや?そっちの子は誰だい?彼女かい?」
「ち、ちがうよ!」
レイスは全力で否定している。
――ちょっと傷つく。
その後、レイスは女将さんに事情を説明すると
女将さんは涙を流しながら私を抱きしめてくれた。
「あんたぁ、辛かったねぇ……」
「好きなだけここに居ていいからね!」
「いや、そんなわけには……」
私はさすがに悪いと思い、手を振って否定したが
「いいんだよ!人生辛いときゃ誰かに頼るもんだ!それが人情ってもんさ!」
女将さんは私の背中をバシバシ叩く。
――痛い。
「俺も女将さんに賛成だよ。色々あったんだからさ
気持ちが落ち着く間だけでも、世話になったらどうだ?」
「うん、ありがとう……」
私は二人の優しさに涙が溢れそうになる。
「さてと、おーい!リンダ!」
女将さんが大きな声で呼ぶと、小さな女の子がカウンターの奥から出て来た。
「なぁに?お母さん?」
「このお姉ちゃんを部屋に案内してやんな!」
女の子は頷くと私の手を握って宿の二階へと上がり
空いてる部屋に案内してくれた。
「ありがとうね。」
私は女の子にお礼を言ってベッドに腰を下ろす。
そのまま寝転び、頭を抱え
「何が何だか、分かんない事ばっかだけど……でも、私は生きてる。」
そう、私は生きてる。生き残ったんだ――
目を閉じると、バケモノに襲われ
助かりたいと願いながら死んでいったみんなの声を思い出す。
―――正直、アキと別れた後、死んでもいいとさえ思った。
けど、レイスに助けられ、その後沢山の人に助けられた。
「ここまでされちゃ、死ぬなんて事はできないよね。」
「何か……恩返ししたいな……」
私はそう思い、目を閉じると、疲労が限界だったのかそのまま眠りについた。
―――翌朝
階段を降りると、レイスが円卓で食事を取っていた。
「おはよう、アリサ。よく眠れた?」
「うん……レイス。一つお願いがあるんだ」
―――「私も、冒険者になりたい。」
ようやく主人公が冒険者になって物語が動き出しました。
アリサを応援するコメントを頂けると執筆の励みになります。




