表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

10話~焦臭~

ガサッ、ガサッ――

湿った草と枝を踏みしめる音が、森に響く。


獣道をかき分けながら進む私達。


慣れない防具の重みが肩に食い込み、

気温は高くないはずなのに、背中に汗がにじむ。


鬱蒼と茂る草むらの奥には、

ゴブリンが潜んでいるかもしれない―――


そう思うたび、呼吸が浅くなり、神経がすり減り続ける。


時折、草陰で音がし、驚いて身構える。

その度に小動物が飛び出し、すぐに茂みへ消えた。


ほっと一息つくと、また別の物音が耳に入り、身構える。


そんな事を何度も繰り返す。


昼間だというのに、森の中は薄暗い。

大きな木々が光を遮り、足元をよく見ないと転びそうになる。


慣れない森の中で四苦八苦しながら、

先頭を行くレイスの姿を、見失わないよう追うので精一杯だった。


(ゴブリンの痕跡を追いながら歩けるレイスは、本当にすごいな……)


私は額の汗を拭い、

それでも足を止めずに歩き続けた。


「あーっ!」

メイが突然叫びだす。


「どうしたのっ!?」

私はあわてて振り返り、先頭を行くレイスも何事だと思い引き返して来た。


「ローブがぁ!枝に引っかかって破れちゃいましたぁ……」

メイは涙目になりながら、穴の開いたローブを見せて来た。


私は苦笑しながら

「まぁ、草むらの中を進んでるからねぇ……」


「もう!邪魔ですねぇ・・・いっその事、全部焼き払ってしまいましょうか!」

メイはぷりぷりと怒りながら杖を力任せに振って枝を叩き折り始めた。


「……冗談だよね?」

顔を引きつらせながら私は聞いた。



しばらく草木をかき分けながら進んでいると


「みんな!ちょっと来てくれ!」

と、先頭を行くレイスが私達を呼んだ


レイスの元へ駆けつけると、少し開けた場所に出る。


そこには、一匹の鹿が何かに食い散らかされた状態で放置されていた。


「これを見てくれ」


レイスが指差した先には、

何かを引きずったような跡と共に大量の足跡が残されていた。


「これ、人みたいだけど違うよね?」


「あぁ、裸足なのと、人の子供に近い足の大きさに加えて、指が三本しかない」


「ゴブリンだな。」


そう言い、レイスは辺りの足跡を確認すると

「数はざっと‥・五匹だな。」


「すごい、なんでも知ってるんだねぇ」

私はレイスの知識量に感服した。


「師匠の受け売りさ、元々俺は学の無い孤児だったけど

 一から教えてくれたんだ。」


「ふんっ!おねえさまに褒められたからって

 いい気になるんじゃないですよ!」


メイはレイスに対して反抗心を燃やすと、引きずられた跡の方に向かう。


「要するに!こちらの方角に向かって進めば、着くわけでしょう!」

メイはそう言いながらドンドン進んで行く。


「あっ!ばかっ!」

レイスがメイを止めようとした瞬間―――


―――カチッという嫌な音がした。



「きゃあっ!?」



それは一瞬だった―――






メイは仕掛けられた罠に足を取られ、逆さ吊りになった。


レイスは頭を抱えながら、

「よく見ろ・・・この食われた鹿の足には紐がついているだろ?

ここら辺はゴブリンの猟場だってことだよ。」


「それをっ!早くっ!いいなさいっ!」

メイは必死にスカートを抑えながら抗議している。


「ちょっと待ってろ、今降ろし―――」


「あっ!だめですっ!男は触らないでください!おねえさまがいいですっ!」


メイは余程触られるのが嫌なのか、

吊り下げられたまま振り子のように揺れ始める。


「いや……私、罠の外し方わかんないよ……」



ぎゃあぎゃあと喚くメイに翻弄されながら、

結局私がメイを支え、レイスが罠を外すことになった。



メイの罠を外し終え、一息付いていると―――



―――突然、胸騒ぎがした。



「レイス!何か・・・来るっ!」


私の声に反応したレイスはメイを抱え近くの茂みへ素早く隠れた。


「―――っ!」


メイはもごもごと抗議していたが、レイスが口を塞いで黙らせた。


私達が茂みに隠れると同時に、視界の端に三匹のゴブリンが現れた。


【ゲギャ?】


【ギギッ!】


ゴブリン達は鹿の死体の周りに集まり、何やら話している。


その様子を見て、私達はお互いに目配せをし合った。




―――――




「土の精霊よ、我が呼び声に応え。

  契約に従い、我が魔力を糧とし、

  母なる大地を解し、底無き沼へと誘え!」




《クアッグマイア!》



ゴブリンの周辺が突如、底なし沼へと変わり、動きを封じ込めた


【ギギィッ!?】


ゴブリン達が驚き慌てふためく間に、私とレイスは茂みから同時に飛び出した


「はぁっ!」


二人で息を合わせ、泥沼の外側からゴブリンの首を落とす


あっという間に三匹のゴブリンを討伐し、一息つく。


「ふぅ、メイちゃんのおかげで楽に倒せたね。」


「そうでしょう!?もっと褒めてくださいっ!」


「三匹とはいえ、戦力を削げたのは大きいな」


レイスはメイの方を見て、からかうように

「メイが罠に引っかかったおかげだな。」


メイは顔を真っ赤にし

「なにおうっ!?次はあなたを遺跡の前で吊り下げて

寄って来たハエもろとも焼き払ってあげましょうかっ!?」


メイは地団駄を踏みながら杖をブンブン振っている。


「ねぇ、それ、使えるんじゃない?」

私はメイの発言で閃き、一つの作戦を提案した―――





―――――――





良イ臭イ、肉焼ケル臭イ。


今日、飯クッテナイ。


ボス子供捕マエタ、アレ特別食ウダメ。


オレ悪クナイ。


臭イツラレ、巣、前動ク、ご馳走食ウ。


他仲間タクサン。


楽シイ。



―――ナンダ?突然、熱イ。






「火の精霊よ、我が呼び声に応え。

  契約に従い、我が魔力を糧とし、

  煉獄の炎を呼び起こし、天へと至る柱と連なりて!我が敵を燃やし尽くせ!」




《プロミネンス!》




轟音が鳴り響き、地面から巨大な炎の柱が空に向かって立ち上り


鹿肉を食べていたゴブリン達が一斉に焼き払われる。


その様子を見ながら、メイは息を荒げ、杖に体重を預けながら

「もえろっ!ゴミどもがーっ!」


「メイちゃん……口悪いよ……」


炎の柱はしばらくすると消え去り、その後は灰すら残っていなかった。


「うわぁ、提案したのは私だけど、すごいね……」


「さすがおねえさまですっ!完璧な作戦!あいつらをゴキブリのように集め、一網打尽しました!」


「言い方……」


「いや、実際悪くなかった、俺では思いつきもしなかったよ。」

と、レイスも褒めてくれる。


私はみんなに褒められ、少し照れたが、

内心では上手くいってよかった、と安堵していた。


――――――


私の考えた作戦は、残された鹿肉を囮にすることだった。


最初はメイの発言通り、遺跡の前で吊ろうとしたが、見張りのゴブリンが居た為断念。


レイスの情報で、ゴブリンは鼻がいいとの事だったので


ならば鹿肉の焼ける臭いで誘えるのでは?と提案


次に集まったゴブリンを一掃する為に、ある程度開けた場所を確保し、


焚火を炊いて鹿肉を焼き始める。


メイの魔法で鹿肉の焼ける臭いを遺跡方向に送り込んだ結果―――


予想以上のゴブリンが釣られてきた。


多すぎて数えられなかったが、十匹は軽く超えていた。


あとはある程度集まった所で、メイの広範囲魔法を使って殲滅した。という事だ。



――――――



メイは息を整えると

「ふふん!ワタシとおねえさまの完璧な連携!男はいらないですね。」


レイスは不服そうに、眉を潜め

「鹿を運んだのは俺なんだが?――しかしまぁ

 焚火を起こしてる段階で、こんなので来るほどバカか?

 と思ったけど、効果は予想以上だったな……」


私は苦笑いし、

「ははっ……でもまぁ、これで大分戦力を削げたよね?」


「あぁ、半分近く減ったはずだ、救出も不可能じゃなくなったな」

レイスがそう言うと


私達は目の前の遺跡を見上げた。



―――遺跡と言うと誤解がある、これは砦だ。



しっかりとした石造の砦だが、壁には苔と蔦が生い茂り、石垣は所々が崩れている。


「大昔の戦争で使われた砦でしょうねぇ」


「中は脆くなってるだろうから、爆発するような魔法は使うなよ?」

レイスはメイに釘を刺す


「ふんっ!気が向いたら使わないでおいてあげます。」


「どういうことだよ……」


「危ないから、気を付けようね?」


「はいっ!おねえさまっ!」


レイスは苦笑しながら


「まぁ、とにかくこれから敵の根城に入るんだ、細心の注意を忘れずにな?」

と言い、砦の門を潜り入っていく。


私とメイもレイスに続き、門を潜る。




―――これから本当の戦いが始まるのを、私はまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ