9話~初陣~
「うーんっ!いい天気だぁ!」
私は宿の窓を開け、朝日を浴びる
外は雲一つない晴天だった。
今日は、村近くの森にあるという古代遺跡へ向かう。
――初めての、本格的な討伐だ。
昨夜の事を思い返し、身支度を整え始めた。
初めて装備を買うにあたり、レイスに相談すると、
「アリサは動きが鋭いのが武器だから
それを殺す装備はやめた方がいい」
との助言をもらい、それにちなんだ装備を選んだ。
頭には軽い兜、身体は硬めの革鎧。
そこそこ重量はあるが、苦になる程ではない。
関節周りは柔らかい素材でまとめ、機動性を確保。
その代わり、篭手だけは硬いものを選んである。
いざとなれば、これで受ける。
そして――腰に下げた一本の剣。
この世界で刀は見つからなかったので、木刀と同じ感覚で振れる剣を選んだ。
《ロングソード》
ベルトを巻き、腰に吊り下げると、木刀とは違う鞘に収まった真剣の重みを感じ、
これから命を懸ける戦いに臨むという事を思い出させる。
「よし……いこうっ!」
装備を着て、心を引き締めて宿のロビーへと向かう。
「あっ!おねえさま!こっちですよ~!」
レイスとメイの二人は円卓に座って待っていてくれた。
「ごめんね、準備に時間かかっちゃって。」
「そこまででもないさ、気にしないでくれ。」
改めて二人の装備を確認する。
レイスは、最前線で敵の攻撃を引き付ける役割を担う為
私と違って金属製の鎧を着ており
円錐型の盾と片手で振りやすい短めの剣を持っている。
逆にメイは、魔法使いらしく
柔らかなローブに身を包み
とんがり帽子を被り
身長と同じくらいの、大きな杖を抱きながら足を揺らしている。
「メイちゃん、可愛いね。魔法使いは戦士みたいに鎧着なくていいの?」
「可愛い!?おねえさまが褒めてくれたぁ……」
メイがニヤけだし、話にならないので代わりにレイスが答えてくれた。
「《魔法》を使うにあたって、精霊と交信する必要があるみたいなんだが
精霊は金気を嫌うから魔法使いは鎧を着れないんだよ。」
「革鎧なら平気ですけどね、でも革鎧も好きではないみたいで
なるべく布地がいいって言われてます。」
「なるほどねぇ……」
「一応、急所となる場所や、ブーツとかは硬い素材で覆ってますよ!」
「それでも、戦士程の防御力はないから、守ってあげないとな。」
「おねえさまに守ってもらえるなら死んでもいいです!」
「わかった、ちゃんと守るから、死なないでね。」
私はメイの頭を撫でる。
メイは予想外だったのか反応に困っていた。
「あぁ、もう死にそうです……」
なぜか、涙目になっている。
レイスが咳ばらいをし、
「オホン、じゃあ準備もできたみたいだし、そろそろいくかっ!」
『おーっ!』
私とメイは同時に声を出し、気合を入れた。
―――――――
意気揚々と宿を出た私達。
外に出ると、陽気な日差しが初めての討伐任務を祝福しているかのようだった。
きっと、なんとかなる。そう思い私達は森の方へと歩き出す―――
―――――しかし、現実は甘くない。
―――――いつだって、不条理は突然やってくる。
「たっ大変だぁ!ゴブリンがでたぁ!!」
大声と共に慌てた村の青年が私達に駆け寄って来た。
『!?』
私達は全員で驚く。
「落ち着いてください!どこで出ましたっ!?」
レイスが青年を落ち着かせ、状況を聞く。
「牧場のほうだっ!俺が見たときは六匹はいたぞ!
しかも、牛の世話をしてた子供が攫われちまった!」
「っ!」
私はその話を聞いた瞬間、身体が勝手に動き出した。
遅れてレイスとメイも私の後に続く。
全力疾走し、私達は息を切らしながら牧場へと辿り着く。
「くそっ!放せぇ!」
視界の端、かなり遠くでゴブリンに抱えられ連れ去られていく子供の姿を捉えた。
―――子供を抱えている、赤黒い肌のゴブリンと目が合い、笑った気がした。
「待てぇ!」
私は怒鳴りながら牧場の柵を飛び越え、走るっ!
「―――っ!」
後ろで誰かが叫んだ気がしたが、構わず子供の元へ走る。
「おねえさまぁっ!」
メイの悲鳴に近い叫び声を聴き、はっと我に返った。
―――周囲には五匹のゴブリンが私を取り囲んでいた。
「しまったっ!」
馬鹿か私はっ!?
―――「討伐では一瞬の油断が"死"に直結する」―――
頭の中で、レイスの声が呼び起こされ、動揺する。
私が怯んでいると、一匹のゴブリンが
棍棒を振り上げながら襲い掛かってくるっ!
「くっ!」
余計な事を考えていたせいで、抜剣が間に合わず
咄嗟に篭手で受け流す。
ミシィ!という骨が軋むような音が響き渡り
骨が折れるような痛みが腕全体に伝わる。
「ぐっ・・・あぁっ!」
歯を食いしばり、思いっきり腕を振り抜いた。
―――――しかし、それだけで終わるはずもなく
隙を逃さず残りのゴブリンが一斉に襲い掛かってくる。
【ギヒィッ!】
【ゲギャギャッ!】
愚かな私を嘲笑うかのような
ゴブリンの下卑な笑い声と共に振り下ろされる凶器―――
―――私が死を覚悟した、その瞬間
《マジックミサイルっ!》
光の弾が私に襲い掛かったゴブリン達を次々と弾き飛ばし、吹き飛ばしていく。
「うぉぉぉぉあっ!」
すかさず、レイスが駆け寄り、横転したゴブリン達を斬り伏せていく。
「おねえさまっ!大丈夫ですかっ!?」
メイがローブを引きずりながら駆け寄ってくる。
―――その時、メイの横から、ゴブリンが短剣を突き立て、襲い掛かった。
【ゲギャッ!】
「きゃあっ!?」
メイは咄嗟に身を屈めたが、間に合わない……
―――その時私は、思考するよりも早く、身体が動いた。
居合斬りのように素早く抜剣し、メイを襲うゴブリンの胴体を切り裂いていた。
鋭い切れ味を発揮した私の一撃は、ゴブリンを一刀両断した。
「おねえさま!ありがとうっ!」
メイが抱き着こうとしたが、私は制止し、
「まだいるかもしれないから、ね?」
剣を手に、周囲の様子を伺った。
「そいつが最後の一匹だな、他はもう逃げてしまったみたいだ。」
そう言いながら、レイスは剣に付いた汚れを拭き取り、私達と合流した。
「アリサ」
レイスに呼ばれ、身体がビクっとした。
先程の軽率な行動が、頭の中で何度も繰り返される。
―――怒られる。
そう思った瞬間、胸が締め付けられるように痛くなり、息ができなくなる。
失望、されたくない。
致命的な失敗をしたせいで、
仲間からの信頼を失ってしまうのが、怖かった。
そう思った途端、私は身構え、
遅れて、身体が小さく震えた―――
しかし、レイスは笑いながら、
「やったなっ!」
といい、レイスは拳を突き出して私を褒めた。
「・・・ありがとう」
お礼をいい、私も拳を突き出す。
拳を突き合わせている私に、
「お"ねえざまぁっ!ぶじでよがっだですぅ"~!」
メイが号泣しながら、抱き着いてきた。
わんわんと泣くメイの頭を撫で、
「助かったよ、メイちゃん、ありがとね。」
抱き着いて泣いているメイを一度離し、
「二人共、ごめんなさい。」
私は頭を下げ、きちんと謝った。
―――私の命は私だけのものじゃない。
―――初陣で私が得た物は、かけがえのない仲間との絆だった。




