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8話~馬車~

「よしっ!依頼も受けましたし、依頼主の村に向かっていざ!出発しましょうっ!」

メイが張り切りながら目的地に向かう馬車に乗り込み、私とレイスもそれに続いた。


「私、馬車に乗るの初めてだ……」

そもそも現代では馬すら見たことない。


「そうだったのか、移動中は結構揺れるから気をつけてな。」


「何ならワタシにつかまっててもいいですよっ、おねえさま!」

そう言いながら、メイは私に抱き着いてくる。


馬車には当然、他に乗る人も居り、視線を感じてしまう。

「メイちゃん……人目があるからあまり、こういうのは……」


「なんでですかっ!ワタシの愛を周りに見せつけないとっ!」

と言いながら、私の胸に頬をすり寄せてくる。


「あぁ、いい匂いがしますぅ……」

それを見た私は、無言でメイの額を指で弾いた。


「あいたっ!」

メイは涙目になり、渋々離れてくれた。


「おっと、走り出したみたいだな。」

レイスがそう言うと、馬車が動き出しガタガタと揺れ始める。


「すごい、結構早いんだね。」


あっという間に遠くなっていく《アンスリウム》の街並みを見て

少し寂しい気持ちになった。


「さて!この移動時間を利用して、依頼のおさらいをしましょうか!」


「たしかに、村に着くまで結構時間がかかるって言ってたもんね。」


「今回はゴブリン退治だったな、二人はどこまで知ってる?」


「私はあんまり……」

知識が皆無なのでちょっと申し訳なく感じる。


「いいんですよおねえさま……ワタシが教えてあげますからっ!」

メイが慰めてくれる、が、抱き着いてくるのはやめてほしい。


「俺も結構詳しいんだが……」


「あなたは黙っててください。」


「はい。」

あっさりと黙らされるレイスが少しかわいそうに思えた。


「さて、ゴブリンとは!肌が緑色の下劣で汚らしい小鬼のことを言います。」

メイが、小さな木の枝を振りながら説明しだす。


「下劣で汚らわしい……」

その評価だけで相当嫌われているんだなと分かった。


「えぇそうです、子供や老人と言った弱者を好んで襲います。」


「そのくせ、低能なのに道具を使い、群れで行動し、集団で襲い掛かってきます!」


「まぁ、一匹一匹はどうしようもなく弱い雑魚なので

 群れじゃなければ怖くないです。」


そう言うとメイはグッと握りこぶしを作り、

「それゆえにっ!ゴブリンごときに負けるようでは冒険者の恥!登竜門なのです!」

と、熱弁していた。


「うーん……」

メイの説明を受けて私は考え込む。


(少なくとも知能があって、道具が扱え、群れるなら十分脅威なのでは?)


と思ったが、メイのやる気を削ぐかもしれないと思い、黙っておいた。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ!おねえさま!

 いざとなったら、ワタシの魔法であいつらの巣を丸ごと

 焼き払ってしまえばいいのです!」


「それに、必ず達成しなければいけない、というわけでもない。」

レイスが優しい口調で、


「魔物討伐にイレギュラーは付き物だ

 だから、想定よりも魔物が多い事だってある。」


「つまり、手に負えなければ情報を持ち帰り

 ギルドに報告するだけでも依頼達成になるんだよ。」


「なにをっ!弱気なっ!」

と憤るメイを、レイスは手で押さえ、


「討伐中は一瞬の油断が"死"に直結する

 逃げるというのは決して恥じゃないんだ、これだけは覚えておいてくれ。」


レイスは、真剣な表情で私達に告げた。


(そうか、これから命を懸けた戦いが始まるんだ……)


そう思い、腰に下げた、真剣を触れる。


余程、私が不安そうな顔をしていたのか、レイスは優しい口調で、

「まぁ、今回は腕試しだから、そんなに深刻に考えなくてもいいよ

 ゴブリンが雑魚っていうのは本当だからな。」


「あぁ……不安そうなおねえさまも可愛いです……

 そうだ!今夜は一緒に寝ましょう!そうしましょう!」


―――――興奮したメイをよそに、私達を乗せた馬車は目的地へと向かっていった。




長い時間馬車に揺られ、目的地の村に着いた私は……


村の入り口で動けなくなっていた。


「おいたわしや……おねえさま……」


長時間馬車に揺られた私は、乗り方が悪かったのか、慣れてないせいなのか、


―――――腰と尻を痛め、立てなくなっていた。


「ご、ごめん、まさかこんな風になるなんて……」


レイスは笑いながら、

「まぁ、慣れてないんだから仕方ない

 村に治療薬ぐらいはあると思うから貰ってくるよ。」


私はメイに肩を貸してもらい、なんとか移動する。


「申し訳ありません、おねえさま……

 ワタシが治癒魔法を扱えていればパッ!っと治せたのですが……」


ひとまず、村の広場のベンチに寝転んだ。


「癒せる魔法もあるんだ?」


メイは悔しそうな表情をして、

「はい……ですが治癒魔法は通常の魔法と違ってかなり高等なので

 ワタシでは使えないんです……」


「そもそも、治癒魔法は僧侶が扱う《奇跡》が得意とする系統なので」


「へぇ、あいたたっ!」

魔法にも種類があるんだなぁ、と思ったが、腰の痛みでそれどころではない。


痛みに悶えていると、レイスが苦笑しながら、

「大分きついみたいだな、腰痛に効く塗り薬、貰って来たぞ。」


「塗り薬!うへへ、ワタシが塗ってあげますね……」

メイが涎を垂らしながら危ない目付きをしていた。


「変な事しないでね……」

レイスに頼るわけにもいかず、渋々頼む。


―――村にある旅宿の一室で、私は薬を塗ってもらい安静にすることになった。


二人は、それぞれゴブリンの情報を集める為、村の人に聞き込みに行っている。


「初めての討伐なのに、申し訳ないなぁ」


(私だけが二人に守られてるな……)


動けない自分が情けなくなり、

罪悪感と嫌悪感に苛まれながらも、先ずは動けるようになるのが先だと思い

そのまま眠りについた。




―――塗り薬の効能がしっかりと効き、その日の夜には動けるようになっていた。




「おねえさまの復活を祝して!かんぱーい!」


村の酒場で食事を摂りながら、二人が集めた情報を整理する。



――――――――――


まず、家畜を放している牧場付近で、ゴブリンを数匹見かけたという証言があった。

通常、ゴブリンは夜間に行動することが多く、昼間に姿を現すのは珍しいらしい。


次に、白昼堂々、人目のある時間帯にもかかわらず、

家畜が一匹盗まれる事件が起きている。


夜間は家畜が厩舎に入れられ、防備も固くなるため、

ゴブリン達はあえて盗みやすい時間帯を選んだのではないか――

というのが、村人達の共通した見解だった。


極めつけは、家畜を取り戻そうとした村の老人が、

数匹のゴブリンに襲われ、命を落としたという話だ。


その後、村の大人達が追い払うことには成功したものの、

討伐までには至っていない。


さらに、村の狩人の話によれば、

ゴブリン達の足跡は、近くの森にある古代遺跡の方向へと続いていたらしい。


―――つまり、そこが根城である可能性が高い。


以上が、メイとレイスによる聞き込み調査のまとめである。


事実を並べていくほど、

これは「ただの害獣駆除」ではないと、はっきり分かった。


――――――――――


「死人が出てるんだね……」


「放っておけば、近いうちに人を攫うようになるかもな。」

レイスは深刻そうな顔でそう告げる。


「村の人達は、そんなに深刻そうじゃなかったですけどねー」

メイは呑気にミルクを飲んでいる。


「まぁ、これ以上深刻な事態にならないように俺達がいるんだ

明日は古代遺跡があるという森に行ってみよう。」


「探検ですねっ!冒険者らしくなってきたぁぁ!」

メイのテンションが上がり、ミルクとチキンを豪快に食べ始める。


その様子を見て、私は笑い、不安が和らいだ。



―――この三人ならきっと大丈夫、確証はないけれど、この時の私はそう思った。


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