大学へ
教務課に連絡をして登校する意思があることを伝えるとすごく驚かれたが、スムーズにことは進んで行った。交通手段に関してはさすがに普通に徒歩だったり、電車を使っての通学は危ないという話になり、大学側が車で迎えに来てくれることになった。もし、歩いて登校して何かしらの事件に巻き込まれることがあると大学側としても嫌なのだろう。それに僕としても女性区域を普通に歩いて登校することに抵抗感がないと言えばウソになるし、大学側からの申し出はありがたかった。
登校する日が近付いていくにつれて少し怖いという気持ちが湧きあがって来る。出会い系アプリなどを使って少しずつ女性とのコミュニケーションを取っていて、楽しいという気持ちもあるもののやっぱり面と向かって会うことに対しては多少なり抵抗感というものがある。
それでも自分が動かないことには何も変わらない。それにもしまた何かあればその時はただ関わることを諦めればいいんだよね。
改めてそう決心して…大学への登校日まで用意をして待つことにした。
――――
あっという間に登校日になった。それまで出会い系アプリを使って色々とやり取りを続けていく。僕としては良い友人関係のようなものが作れていると思っていたりする。
女性側がどう思っているのかは分からないですけど。
そんなことを考えているとインターホンの音が鳴り、声が聞こえてきた。
『大学の者です。迎えに参りました』
『わかりました、すぐに向かいます』
僕は急いで玄関へと向かうことにした。
チェーンを掛けたまま開けるとそこにはスーツに身を包んだ女性が立っていた。
その女性はしばらく無言のまんま、僕のことを見ていた。何か変なところでもあるのかなぁと服を確認していると急に話し出した。
「お迎えに上がりました」
「来て頂きありがとうございます」
ドアを一度締めてチェーンを外してから開ける。
「改めて、迎えに来てくださってありがとうございます」
「…いえ、こちらとしては男性が我が大学に登校してくださるのは本当に有難いです」
スーツに身を包み、サングラスをしている。それに表情が全く動かないので少し堅い人なんだと思う。
僕はその後、荷物を持って外に出て行くと黒く綺麗な車が止まっていた。
「葉山様、どうぞお乗りください」
黒服の女性が開けてくれたドアから乗った。
そこから大学までの道のりは長いので少し隣のスーツの女性と話すことにした。運転手の方に話し掛けて気が散ったらとても申し訳ないですから。
「あの…少しだけお話しませんか?」
「は、はなしですか?」
「はい、僕は初めて大学に登校するので。大学のことを知っている人から色々とお聞きしたいんです」
このスーツの女性がどんな役職の人なのかは今の段階じゃ分からない。それでも迎えで来てくれたということは少なからず、僕よりも学校のことを知っている人だと思いますしね。
「…わかりました。自分が教えられることであれば」
「ありがとうございます」
それからスーツの女性は大学について詳しく話してくれた。
人気のサークルや部活、休み時間で人気のスポットから勉強に至るまで本当に色んなことを。そして話していて分かったことがある。
このスーツの女性はとても話しやすい。
僕も面と向かって女性と話すのは下手したら母親以来なのにスムーズにできた。これも出会い系アプリの影響があるのかは分からないけど、さすがにまだ文面だけのやり取りだし、この女性が話しやすい人だと考える方が不思議かも。
なので、ある程度、話がひと段落したところスーツ女性自身のことについて聞いてみることにした。
「お話ありがとうございます。それで差し支えなければあなたのお話を伺えたりしませんか?」
「じ、じぶんのですか?」
「はい、あなたのことを聞いてみたいと思いまして」
そこまで言ってまだ自分が自己紹介をしていないことに気付いたのですることにした。さすがに相手のことを聞こうとしているので名乗らないというのは失礼だよね。まぁ、相手は大学の関係者なので僕のことを名前などを含めて知っていると思うけど。
「遅くなってしまいましたが、僕の名前は葉山優と言います。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。自分は双葉梓穂と言います。こちらこそよろしくお願いします」
「双葉さんは先生なのですか?」
「い、いえ、自分は4年生です」
「学生だったんですね。てっきり大人っぽい雰囲気もありましたし、迎えに来てくださるのが大学の先生たちだと思っていました」
まさか在籍している学生が迎えに来るとは予想もしていなかった。
「…ま、まぁ、そうですよね」
だとしたらこれから学校生活で会ったりするかもしれないし、しっかりと関係を築いておきたい。話した女性の母数の数が少ないので何とも言えないけど、ここまで話しやすい女性はそんなに多くないと思う。
「双葉さんって優しい雰囲気を持っていますよね」
「え、そんな雰囲気ありますか?」
「ありますよ。僕って女性と顔を合わせるのは本当に久し振りだったので、少し怖かったんです」
その怖いという気持ちが双葉さんと会ってからはしていない。
「でも、僕の話もしっかりと聞いて下さるので話しやすいですし、話していてとても楽しいです」
「…そ、そうですか」
「はい、双葉さんで良かったです」
僕なりに満面の笑みでそう話した。初対面の相手だし、仏頂面とかを見せるわけにもいかないしね。
なぜか、双葉さんは僕と真反対の窓の方に顔を向けてしまった。
もしかしたら、嫌われてしまったのかな。
なにか気に障るようなことをしてしまったんだろうか。
これ以上、話し掛けてもっと気分を害するようなことがないように僕も彼女から窓から見える景色を眺めることにした。
女性区域に入っているので街には女性しかいない。春から夏へと変わっていく景色なので外を歩いている人たちの恰好はやっぱり薄着だ。
女性区域にはもちろんほとんど女性しかいないので異性の目を気にする必要が全くと言ってもいいというか、この世界に生きている女性は別に男性が居ても薄着とかは気にしないのかもしれない。
でも、僕としては前世の記憶があるので多少やっぱり女性の薄着を見ると、自然と目をそらしてしまう。
大学までの道のりはそんな感じで過ごしたのだった。




