台風の影響
台風の強さは僕たちが想像している以上のものだったらしく、しばらく待っても台風が弱まる気配というものが全くない。
こうなると本当にこれからのことについて考えないといけない。
さっきよりも台風の強さが増しているところから、公共交通機関で帰るのは無理。というか家に帰るという選択肢自体を除外しないといけない。
大学で一晩泊るという可能性の方が全然高い。
「双葉さん、今日はここで泊る感じになりますか?」
「…断言するのは難しいですが、その可能性が現時点では高いかもしれません。幸い、大学内には食料もありますし、シャワーなどもあるので、移動するよりはここに留まった方が今はいいかと」
「確かにそうですね。今日はここで一晩過ごすと考えた方がいいかもしれません」
大学内に泊まる経験をすることになるとは思っていなかった。
となるとしっかりと岬さんに連絡をしておいた方がいい。
今日は岬さんと仮想空間で会う約束をしていた。
最近は大学から帰って、夕食やお風呂を済ませたらほとんど仮想空間に入っている気さえする。それぐらいに最近は入り浸っている。
連絡を入れようとスマホを触ったところで…電源が消えていることに気付いた。
「…そっか。そういえば、こういう状態だった」
昨日の夜は寝落ちをしてしまって、充電するのを忘れたんだ。
「こんなことならモバイルバッテリーをちゃんと持って来ておくんだったかも」
いつもは絶対に持ち歩いているのに今日に限って、持って来るのを忘れたのだ。必要な時に限って、持っていないんじゃ本当に意味がない。
双葉さんや花里さんであれば持っているかもしれないけど、いつまでこの状態が続くかも分からない。それに彼女たちは僕がお願いをしたら、本当は自分も必要なのに躊躇いなく、貸してしまうのだ。
それが分かっているからこそ、何かを貸して欲しいとかを軽率に言えないのだ。
「あとで…岬さんに平謝りしないと」
それで岬さんが許してくれるかは分からないけど。人との約束を破るのはどんな事情があったとしても…許されるようなことではない。
特に相手に信頼されるには必要なこと。
岬さんとここまでやり取りをして、信頼を培ってきたつもりだったけど、ここで全てを失うかもしれない。
それも仕方ない。
――――――
それから数時間経って、正式に理事長から大学に残っている学生、教職員は一晩泊ることになった。
いつもより、花里さんと双葉さん、月森先輩は気を張っていて、僕に近付こうとする人がいない。ボディガードとしてしっかりと仕事をしてくれているのは分かっている。
でも、これじゃあ、三人が休まらない。ずっと気を張っていたらいつか三人のうちの誰かが倒れてしまうんじゃないかとすら考えてしまう。
「みんなも休んだ方がいいと思う」
「あたしは大丈夫です。それにあたしの役目は葉山くんのことを護ることだし。しっかりと葉山くんが何も問題なく、お家に帰れるまで護らないと」
「ぼくも大丈夫。全然疲れてないし、葉山くんのためだったらどんなことでもがんばれるから」
「もちろん、自分も葉山さまのためであればどんなことも辛いと感じません。これからも葉山様のために全身全霊を尽くさせてもらいます」
三人の回答はこんな感じで…全然休んでくれる感じじゃない。
もちろん、僕のために頑張ってくれているのは嬉しい。男の僕でも安全に女性区域で過ごせるようにしてくれているわけですし。
それでもやっぱり彼女たちの健康が少し心配になるなぁ……と思いつつ、夜を迎えるのであった。
―――
この日の夜は彼女たちにとって一生忘れられない日になることを…まだ彼女たちは知らない。




