仮想空間×八富楓
アタシはユウさんのためであればお金に糸目をつけない。これは決めていて、ユウさんのような男性と出会える機会はこれから訪れない。
それならここで全てを使ってもいいぐらいの気持ち。
男性といられる幸せを得られるのであればそれはお金に代えられないくらいの価値がある。
だから今の状況はとても幸せだ。
「アタシってこんなに幸せでいいのかな」
「…幸せですか?」
「うん。とっても幸せ」
アタシはユウくんの胸の中に顔をうずめている。こんな幸せな状況が存在していいのかと頭の中では思っていても、体は正直者。気持ち悪がられないように静かにユウくんの匂いを嗅いだりしている。
「…カエデさんが少しでも幸せを感じていてくれるなら」
この言葉からもユウくんの優しさがにじみ出ている。
それに女が抱きしめてきたり、こんな手の届く距離にいるのに距離せず、受け入れてくれてる。
世界でユウくんしかいない。
ここが仮想空間の世界だということは分かっている。五感を共有しているのも分かっているし、ここが本当の世界ではない。どれだけ本物に似たような感触を味わっていてもそれは本当ではないと。
でも、今までこんな風に男性と近寄ったこともない。こんな近くで顔を見れたこともない。
「本当にユウくんって何でもやってくれるんだね」
「何でもはやらないですけど、カエデさんの頼みであれば。それにギフトまでいただいてやらないわけにはいかないですし」
いや、ギフトという形で金銭をもらってもほとんどの男性はやらない。だって女性のことが嫌いで、近寄られることもいやだと思う。
ユウくんは嫌な顔をせず、受け入れてくれる。
こんな風に接しられて…好きにならないわけがない。
「ユウくんって可愛いよね」
「可愛いですか?」
「とっても可愛いよ。こんなに可愛いと何か事件に巻き込まれたりしないか、心配だよ」
これだけ暴力的な顔立ちをしていて、心も広くて、性格も超が付くほど良い男性。誰もが欲しくてたまらないはず。人によってはユウくんのことを多少傷付けたとしても手に入れたいという人はいると思う。
それくらい、ユウくんは魅力的な男性。
「心配してくださってありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
「ほんとうに?」
「カエデさんにウソなんか付きませんよ」
「…それならいいけど、なんか危なそうだったら絶対に逃げてね。助けが必要だったらどんな時でも連絡してくれれば絶対に駆けつけるから、アタシは」
アイドルの仕事をしている時でも駆けつける。
アイドルとしてのお仕事はとても大事だけど、今はそれ以上にユウくんのことが大切で守ってあげないといけない。
「カエデさんは優しいですね」
優しいのはユウくんの方だよ。
アタシはアタシがユウくんに良い人って思われたいから頑張っているだけ。
ユウくんが結婚とかに興味がある人だったら、ワンチャンスで選ばれたいから必死になっているだけ。
そんな汚い理由なのにユウくんはいつも澄んだ瞳で、アタシのことを見てくれる。ユウくんが思っているほど、アタシはキレイな人間じゃないのに。
「…アタシは優しくないよ」
「いえ、優しいですよ」
「そんなことないのに」
「僕の目から見て、カエデさんは優しい方です。いくらカエデさんがそれを否定しても僕の目からはそう見えているので大人しく認めてください」
はぁ…なんでユウくんはこんなに包み込んでくれるんだろう。アタシが何をしても許してくれそうな雰囲気すら漂っているし。
本当にユウくんは……
これはユウくんから離れられなそうにない。
もし、アタシが死んで幽霊とか実体のないものになったとしてもユウくんの側に居たいな。
ずっとユウくんと一緒にいたい。




