個人で会える空間
ひなたさんの後に付いていくとなんか豪華そうな場所に着いた。応接間のような部屋で椅子同士が向かい合うように配置されている。
理事長室のような感じが一番近いかも。
「ここは運営が二人きりで話せるようにするために作った場所です。部屋としては豪華さを売りにしているみたいです」
「そうなんですね」
「まぁ…部屋について話しても時間の無駄ですね。座ってお話をしましょう」
僕とひなたさんは向かい会う形で腰を下ろした。
「まずは改めて、ユウさんとお会いできて本当に嬉しいです」
「僕の方も同じ気持ちです。ひなたさんとこういう形でも面と向かって、お会いできて嬉しいです」
出会い系でやり取りしている人と会うのはまだ先だと考えていた。でも、この仮想空間というサービスが出来たことで、面と向かって話すことが出来る。
「ユウさんはしっかりと変装をされているんですね」
「はい、変装といっても髪色と眼鏡ぐらいです」
髪色を黒にして、眼鏡を外せばいつもの僕だ。背丈も同じくらいに設定しているので、本当に僕自身だ。
「あまり変えなかったのですね」
「変えても良かったんですけど、あんまりやると自分じゃなくてアバターだという気持ちの方が大きくなってしまう気がして」
あまりこの体と現実の体が違うと自分的としてはちょっと違和感がある。それに顔がバレても住所がバレるというわけでもない。
正直、住所がバレたとしても女性が男性区域内に入るのはかなり難しい。無理に入ろうとすればその前に警備隊に捕まることになる。
「初めてユウさんのお顔を見ましたわ」
「あ、そうですね」
顔写真はアップしていない。顔はギリギリ見えないようにしていたので、大学で会っている人以外は僕の素顔を知らないのだ。
「イメージと違いましたか?」
「いえ、イメージ通りというか、とっても可愛らしくて好きですよ」
可愛らしい顔立ち…なのかな。僕はあんまり自分の顔を見て、『可愛い』と思ったことがないので分からない。
それとも、この世界の価値観として女性の方が強いから、男性の方が弱いというものがある。だから無害そうな僕の顔に対するイメージが『可愛い』というものになるのかも。
「でも、顔を隠していて正解だと思いますわ。そのような可愛らしい顔立ちだと変な女がたくさん寄って来ますからね」
「普通だと思いますよ」
「普通ではないですわ。ユウくんのような方は世界で見てもいませんよ。こんな風に女とアバターを通してでも女と関わってくれるような存在はいませんわ」
「そうですかね。探せばいると思いますよ」
自分でも自分はこの世界の男の中では少しイレギュラーな存在だというのは分かっているつもり。それでも面と向かってこんな風に言われると、やっぱり相手にもそう思われているんだと知ることができた。
どうやら僕の『探せばいる』みたいな発言がひなたさんの何かに触れたようで、今までよりも鋭い視線で射抜いて来る。
「いません。居たとしてもユウさんを上回るような存在はいませんわ」
「そうなんですね」
ここは話を合わせないとだめっぽい。ひなたさんの目がこれを真実だと肯定しないと許してくれなさそう。
それぐらい、ひなたさんが僕のことを高く買ってくれているのは嬉しいものの、そんなに大した人間ではないんだけどな。
「はい。ユウくんはもっと自分に自信を持った方がいいですわ。ユウくんのような殿方はこの世界に存在しません」
まさか「存在しない」と断言される程とは思ってもいなかった。
それから少し話しているとひなたさんが「そろそろこの部屋を出ないといけませんね」と言い出した。
どうやらこの部屋は滞在できる時間が決められているらしい。
なので僕とひなたさんが椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとしていくところでひなたさんが床に躓いて転んでしまった。
本当は助けられれば良かったものの、気付くのが遅かった。
仮想空間といっても五感が共有されるので、痛覚はもちろんある。転んだら、現実で転んだのと同じくらいの痛みがあるんだと思う。
ひなたさんは少し顔を歪めているし。
僕はひなたさんが立ちやすいように手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
「…あ…はい」
なぜか、ひなたさんは一瞬僕の手を取ることに躊躇したように見えた。それでもしっかりと手を取ってくれたので僕はひなたさんが立つ手助けをした。
あんまり力があるようなタイプではないので、一緒に倒れてしまう可能性もあったけど、どうにかなった。
「お怪我はありませんか?」
「…だ、だいじょうぶですわぁ…」
「それはよかったです」
怪我という概念がこの世界にあるのかは分からないけど。でも、転んだ相手に聞く言葉はこれしかないと思う。
「気を付けてくださいね」
現実であれば普通に怪我をしてたと思うし。
そして僕とひなたさんは部屋から出た。




