仮想空間
予習や復習をしている間に、アップデートの時間を過ぎていた。
「もう少し遅らせてもいいけど…一度だけ試してみようかな」
サーバーに入れる人数制限があるらしいので、入れないかもしれない。それでも一度だけ試してみるぐらいはいいよね。
VRゴーグルを装着して読み込みなども完了させて、出会い系サイトが運営している仮想空間に入る。アバターに関してはカスタマイズは自由。素顔のまま入ることもできるし、全く違う顔にして入ることもできるみたい。
さすがに危機管理として素顔で入るのは避けたい。素顔を知られたからといって、僕に何かしらの危害を加えるのは無理だと思う。それにそんな人がいないはずだし、あんまりリアルと変えすぎると違和感があるしね。
それでも念のため、素顔をベースに少し変えることにしよう。
髪色は金髪、背丈は本物と同じくらい、普段はしない眼鏡もして、アバターを生成した。あんまり変えすぎず、現実の僕とは少し違う感じにした。
「それじゃあ…いこうかな」
―――――――――
仮想空間に入ると――――
「こ、これ……すごい…」
僕の目に映るのは…中世の街並み。
まるでゲームの世界に入ったかのような錯覚を覚えるほどのもの。今までゲームを通して見ていたものが、自分の目で見れているという衝撃に頭の処理が追い付いていない。
「…ゲームの世界だ」
ここはあくまで出会い系サイトのために作られた空間。でも、そろそろVRMMOが出るという話も聞いたりするし、いずれこんな場所でアクションプレイとかが出来るようになるってことか。
そう考えるとやっぱりワクワクが止まらない。自分の体に視線を落とすと、この世界観だと少し浮きそうな服。
「こういう世界なんだったら、もうちょっと中世っぽい衣装にすればよかったかな」
服に関してはあんまり無頓着なこともあって、適当に決めてしまった。次に入れる時はしっかりとこの世界観にあった服装にしてこよう。
そう決意したのだった。
「それにしても入れてよかった」
アクセス制限を設けていたので全然入れない可能性もあると思っていた。辺りを見渡しても人は見当たらない。
「まだみんな入って来ていないのかな」
それとも出現する場所がちょっと違うとかかな。でも、ゲームじゃあるますし、そこまでマップは大きくないと思うんだけど。
僕はしばらく適当に歩いていると一人の女性と会った。その女性は眼鏡をしていて、中世の服装っぽいみたいなものを着ている。顔は美人だと思う。
ここで初めて会った方だ。この世界はあくまでアバターだ。五感全てが研ぎ澄まされているとしても現実ではない。それに18禁に抵触するような行為をすれば、追放されるみたいだし。
ここは勇気を振り絞って、声を掛けて見よう。
「あ、あの…」
「え……」
相手は混乱している様子なので、ここは自分からしっかりと名乗っておかないと安心してもらわないといけない。
「僕はユウと言います。あなたのお名前をお聞きしても良いですか?」
「…私はひなたといいます」
その名前は僕がやり取りをしていた方の中にいる。でも、同じ名前が登録できないようになっているのか分からないので、絶対にその人だと判断することができない。
でも、容姿がアイコンの写真と似ている気がする。アバターが本当の姿を映しているのかは分からない。
「ひ、ひなたさん…ですか」
「ええ、そうです。ユウくんとやり取りをさせてもらっていた『ひなた』ですわ」
「や、やっぱりひなたさんなんですか!?」
「ええ、そうですわ。ユウくんにこういう形でもお会いできて嬉しいです」
仮想空間に入ってすぐにやり取りをしている人と出会えるとは思っていなかった。
アクセス制限もあるからこそ、やり取りをしている人が入って来れるか分からないし、こんな午前からアクセスする人がまずいるのかという話にもなる。
やり取りをしている方のほとんどが今日ログインを目指して頑張るみたいな話はしていたものの、明確な時間帯が決まっていたわけでもないので。
「ひなたさん、やり取りいつも楽しいです」
「いえ、私もです。ユウくんとやり取りができるお陰で毎日頑張れているんです」
アバターを介した会話とはいえ、五感もあるのでまるで実体かのような錯覚するある。女性との会話は大学でもそれなりに経験を積んで慣れてきているものの、相手はまだリアルで一度も会ったことがない人。
さすがに多少なりの緊張はある。やり取りや通話をしている時とはちょっと違う。
「こんなに早くお会いできるとは思ってもいませんでした」
「私もです。ユウさんとはたくさんお話したいことがあるわ」
「はい、僕もです」
「では…ちょっと私に付いてきてもらえますか?」
「どこかに行くんですか?」
「はい、この空間の中に二人きりでお話ができるサービスがあるんです」
「え、そうなんですか!?」
「はい」
ギフトとか色々と利用できるサービスが増えるみたいな話は公式のアップデートに関する連絡の中にあった気がするけど、そんなサービスまであるんだ。
「私もユウさんと折角お会いできたので、お話をしたいんです。ユウさんは男性ですし、他の利用者が変なちょっかいを掛けてくるかもしれないですし、二人きりで話せるところでいかがでしょうか?」
アプリを利用している方でやり取りをしている方に出会えたのは本当に奇跡に近いかもしれない。それなら今はひなたさんとお話をすることにしてもいいかも。
「……そうですね。では向かいましょう」
「はい。私に付いて来て下さい」
僕はひなたさんの後について行くことにした。




