仮想空間の始まり
いつものように朝起きて、歯磨きをして、食事をして、着替える。いつもと何も変わらないような日常であるものの、今日は出会い系サイトのアップデートが行われる日だ。
何時にアップデートがされるのか分からない。一応、情報収集のため出会い系サイトを運営している会社のサイトを開くとそこには『アップデートの内容について』という記事が投稿されていた。
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お客様各位
平素より、弊社のアプリをご利用いただき、誠にありがとうございます。
本日はいよいよアップデートの開始日でございます。
まず、これまで多くのお客様をお待たせしてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本日より、アップデートにてお知らせしておりましたギフトとVRのご利用が可能となります。
ギフトのご購入方法につきましては、クレジットカードやコンビニ払い、その他様々な決済方法をご用意しておりますので、詳細は公式サイトにてご確認をお願いいたします。
仮想空間に関しましても、事前にお伝えしておりました通り、人数制限を実施させていただきます。
本日はアップデート開始日ということもあり、大変な混雑が予想されます。
誠に恐縮ではございますが、一度での入室は難しい場合もございますので、何度かお試しいただけますと幸いです。
また、これは事前のお知らせには記載しておりませんでしたが、ご利用時間を一人あたり30分に制限させていただきます。
これは、サーバーへの負荷を軽減するとともに、利用者様全員に仮想空間を十分にご堪能いただきたいためです。
本日は仮想空間についてご理解いただき、次回の利用にお役立ていただければ幸いです。
ギフトのご利用も可能ではございますが、本日は同じ出会い系サイトをご利用されている方々との交流にお役立ていただくのも良いかと存じます。
午前11時頃からご利用可能となりますので、今しばらくお待ちいただけますようお願い申し上げます。
未知の体験がお客様をお待ちしております。
今後とも、弊社のアプリをどうぞよろしくお願いいたします。
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「11時頃からか」
現在時刻は午前8時だ。
まだアップデートの開始まで3時間ぐらいある。さすがにずっと待っているのも退屈なので、この時間で講義の予習と復習をすることにした。
大学に持っていっているカバンから教材を取り出すと、違和感に気付いた。
「これ…なんだろう」
カバンの奥に何か小さな紙切れが入っていた。
「紙を千切った覚えなんてないんだけど」
不思議に思いながらも、紙切れを手に取り、両面を確認してみるとそこには何かしらのコードらしきものが書かれていた。
コードは数字とアルファベットで構成されているものの、これが何のコードなのか分からない。それに僕はこんな文字を書いた覚えはない。
ではなんで僕のカバンにこんな切れ端が入っていたのかな。誰かが書いたものが間違って僕のカバンの中に入っちゃったって考えるのが一番無難。
だけど、さすがにこの紙切れだけじゃ特定できるわけもない。何か大事なコードである可能性もあるので本当は持ち主を見つけて、渡してあげたいものの、その手がかりすらもない。
「捨てるのも申し訳ないし、どうすればいいのかな」
結局、紙切れはなくさないように仕舞うことにする。




