海野彩葵
海野彩葵は出会い系アプリを始めた。この世界で男性に会うことはほとんどない。政府直轄の男性専用の家政婦になれれば別だがそうでもなければ一生のうちに会わずに死ぬことも全然ある。
そしてそれは私も同じ。
23年間、一度も男性と会ったことはない。
このまま会わずに死ぬのかなぁと思ったところに出会い系アプリを見つけた。
正直、こんなのアプリをインストールするだけで男性と出会えるんであればこの世界の女は苦労しない。そんなことじゃどうにもならないからこそ、私たちは苦しんでいる。
それでも気休め程度にインストールしてみることにした。
初期設定やプロフィールの作成はそこまで難しくなかった。プロフィールの写真に関しては…普段から自撮りをするような癖がないので下手だ。
まさか男性からいいねが来るとは思っていなかった。それにその男性のプロフィールを確認すると顔こそ映っていないものの、キレイな足や薄い服の隙間からちょっと見える肌が本当に興奮させる。
「お、おそいたい…」
こんな写真を見せられたら平常心を保つのは無理だ。目の前にこんな格好でいたら、すぐに押し倒しちゃうと思う。
「この子と…やり取りできるんだぁ…」
今までの人生で男性と接したこともないのに、ちゃんとやり取りができるかなという不安はやっぱりある。少しでも私のことを気に入ってもらえるようにしないと。そしていつか会うみたいな話になった時は…襲っても良いよね。
この世界で男性は女性と会いたがらないし、逃げる。それなのにもし、会うみたいなことになったらそれは襲っても良いということのはず。
そして数分して興奮が落ち着いてきて、これからのことを考える。
「どんな風にメッセージを送れば良いのかな」
嫌われないようにしないといけないし、少しでもよく見えるように。しばらく考えた結果としてどうにかメッセージを作れた。
『こんばんは!急に連絡してすいません!たまにでいいのでお話しませんか?』
これであればそこまで嫌がられないと思う。
相手は私に対していいねを押してくれているし、このアプリをインストールしてくれているわけだし、メッセージを送り合うことに対して拒否反応があるわけじゃないと思うしね。
勇気を出して送ってからしばらくはそのトーク画面を見続けて、さすがに2時間が過ぎたところで諦めて寝ることにした。
そして朝、目を覚ましてスマホを確認するとそこにはユウさんからの返事をきていた。
『お返事が遅れてすいません。おはようございます、こちらこそよろしくお願いします。あおいさん』
「え…名前で呼んでくれた」
それに文章も男性と思わないぐらい丁寧。今まで私は男性と会ったことがないので、あんまり分からないけどよくテレビや漫画だと男性はすぐに怒ったり、殴ったりするような狂暴な感じで描かれることが多い。
でも、今私に返信をくれたユウさんはとても丁寧だし、何より私の名前を呼んでくれた。それだけで、私の奥底にあった男性に対する想いが溢れてしまいそうになる。私は出会い系アプリで良かったと素直に思った。
「もし、ユウさんが近くにいたら確実に襲っちゃってた」
もし、そんなことをしたらユウさんは絶対に私と連絡を取ってくれなくなるだろう。と考えるともしいつか会える時になったら、その時に焦らないように今から自分を律することを覚えよう。
折角、返信してくれたのでこっちも返さないとと考えたところで、私の頭が一瞬冷静になった。
このやり取りをしているユウさんは本当に男性なんだろうか。
よくこういう出会い系アプリは詐欺が多いと聞く。女性が男性を騙って、お金を搾り取ったり、犯罪への勧誘などをするというものだ。
こんなに優しくて、コミュニケーションを取ろうとしてくれる男性が存在するのだろうか。そう思ったら疑ってしまう。もしかしたら、ユウさんっていう男性は存在しないのではないか。
そこで失礼だと思ったけど、ちょっと質問してみることにした。
『よろしくお願いします!失礼を承知でお聞きするのですが、ユウさんは本当に男性ですか?』
こんなのもし、ユウさんが本当に男性だったらすごく嫌な気持ちになるはず。急に疑われて、それを聞かれて、もしかしたらもう返事が来なくなるかもしれない。
不安に思いながらも待っていると返信がきた。
私は震える手を抑えながら開いた。
『もちろん、男ですよ』
その返信にさっきまで緊張が急に解けた。
そしてすぐに私は返信を送った。
『そうなんですね!私、男性とお話するのは初めてなので緊張しています』
送り終わると私は体を横にする。
本当に男性だったんだ。
それに全然、怒っている様子もないし、ユウさんってかなり心広い人なのかも。まだ数回しかやり取りしていないけど、とても優しいし、私のことを考えてくれているのがしっかりと伝わって来る。
またそんなに時間が経たずに返信がきた。
『僕も女性の方とメッセージでやり取りするのは初めてなので、改めてよろしくお願いします。仲良くなりたいので気になったことがあったらどんどん聞いて下さいね』
え、本当に何でも聞いて良いの。
好みの女性とか、顔とか見せてくれませんかとか聞きたいことはたくさんある。男性と初めてメッセージができるんだから、聞きたいことは山ほどある。
でも、ここであんまりグイグイ行き過ぎるとユウさんを怖がらせてしまうかもしれない。
ここは私の聞きたいことの中でもまだ無難な方で、それでもって聞きたいことにしよう。
『ユウさんは女性とお話するのが怖いですか?』
送り終わってから少し踏み込み過ぎかなぁとか色々と考えながらも返信を待つことにした。
『面と向かってお話するのはちょっと怖いです。でも、僕はいずれ面と向かってお話できるようになりたいと思っています。なので、少しでも慣れるためにこのアプリを入れたんです。あおいさんは男性とお話することは嫌ではありませんか?』
嫌じゃないよ!!
むしろ、私に男性と話せる機会が来るなんて夢みたい!
それにこの感じだとユウさんは女性と面と向かって会うことに対してそこまでの拒否反応がない。これは本当に珍しいし、もしかしたらこのままやり取りを続ければいつかは本当に会うこともできるかもしれない。
これは本当に嬉しいし、もし会えなくてもやり取りが出来るだけでも一生の思い出だ。
それにやっぱりユウさんは優しい。
私のことを気にかけて『男性とお話することは嫌ではありませんか?』なんて聞いてくれて…本当に天使。
返信はさっきと同じようにグイグイ行かずにしっかりと自分の気持ちだけを伝えることにした。
『いえ、むしろ楽しみです。今まで男性とお話したことがなかったので、ユウさんみたいな方に出会えて私は幸せです』
本当に幸せ者だ。
出会い系アプリをあの時、入れなかったらユウさんとやり取りをすることもできなかった。
こんな幸せな想いをできなかったなんて…
あの時、出会い系アプリを入れる決断をした自分を褒めてあげたい。
そしてこれからも出来る限り、この幸せな時間が続くように頑張ろう。
ユウさんに私が魅力的だと知ってもらって、安心してもらい、色々なことを話して、いつか会えて、ユウさんが気に入ってくれたらお嫁さんとかに……
いつの間にか、返信が来ていたようで確認して、私は嬉しさ過ぎて部屋の中でちょっと叫んでしまった。
『僕もあおいさんのような素敵な女性に出会えて嬉しいです。これからもっとお互いを知っていきましょうね』




