お菓子配り①
今日はお菓子を渡す日。
なるべく温かいクッキーを食べて欲しいので、大学に行く日の朝早くから作ることにした。
もちろん、何度も練習はしたので大丈夫だと思うものの、少し心配はやっぱりある。
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結果から言うと、お菓子作りは思っていた以上に難しかった。それでも味見を繰り返しつつ、誰かにあげても大丈夫だというレベルまではどうにかいった。
さすがに美味しくないものをあげるわけにはいかない。
なので、今回作ったのは無難にもクッキー。形の工夫よりも味を優先してしまったので、あまり形はよくないものの、味の保証はある程度できる。
人に渡す以上はしっかりと包装をしてから渡さないとだめ。なるべく良さそうなものを近くのスーパーで見繕ってきた。
最後に作ったクッキーを上手いこと包装すれば終わり。あとは大学に持って行くまで、割れないようにすればいい。
渡す相手を決めているわけではないものの、確実なのは双葉さんだけ。さすがに全員に渡すだけの量を作っているわけでもないので、その辺りは出会った順番。
でも、花里さんは僕が断りを示した後も話し掛けてくれるので、友人としての関係を上手く築いていけそうな気もするし、優先するべきかも。
そんなことを考えつつ、僕は大学に行く準備を整えて待つ。
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迎えに来てくれたので、いつも通りに車に乗り込む。そして車が動き出したタイミングで隣の双葉さんに話し掛ける。
「あの双葉さん」
「はい、なんでしょうか?」
「お渡ししたいものがあるんですけど、いいですか?」
「は、はい…?」
双葉さんは困惑しているようだけど、渡さないわけにはいかないので僕はカバンから包装されたクッキーを差し出した。
「いつもお世話になっているので、これを渡したいなと思いまして」
「これは?」
「クッキーです。お菓子作りはあんまりしたことなかったので、期待しないでくださいね」
「…こ、これを自分に?」
「もちろんそうですよ。双葉さんにはずっとお世話になっているので、お渡ししたいと思っていたんです」
このクッキーぐらいで日頃のお世話になっている分が返せるとは思っていない。だけど、少しでも感謝しているという気持ちが双葉さんに伝わればそれでいい。
「…葉山様が自分に?」
「はい。双葉さんには支えてもらっているので。その些細なお礼だと思ってくれれば」
「ありがとうございます。ですが、自分が葉山様を護ることは当たり前のことです。なので、葉山様が自分に気を遣って、このようなことまでする必要はないのです」
「…嫌でしたか?」
僕の問いかけに双葉さんは急に身振り手振りを加えて、否定をしてくれた。
「そんなこと絶対にありません!葉山様から贈り物を頂けるのは本当に嬉しいです!!」
気を遣わせてしまっている感じもして、少し申し訳ない感じもするものの、しっかりと渡せた。
こんなもので日頃の感謝を返せるわけではないとは分かりつつも、少しでも感謝が伝わればいいなぁと思っていたりする。
――――――
大学に着くと運転手さんにも日頃の感謝を伝えるためにも渡した。双葉さんと同じで、毎回迎えに来ていただいているので。
本当に僕が大学に来れているのはこの二人の協力があってこそだ。
講義を受けるよりも前にある場所に向かう。
その場所とは理事長室。
この大学にて一番偉く、僕がこの大学に登校することを含めて許可を出してくれた人。男が女性区域の大学に通うのは大学側としても色々な覚悟をしなくてはならないはず。
それなのに受け入れてくれたのは本当に感謝しかない。
理事長室の扉をノックして名前を名乗ると「入りたまえ」という声が聞こえたので、中へと入って行く。
そこにはスーツに身を包んだ理事長が座していた。
「そこに座ってくれ」
「わかりました」
促された場所に座り、双葉さんは僕の後ろで立っている。前に「座ってもいいよ」と言ったことがあったものの、「自分は葉山様を護るものなので」の一点張りで座ってくれなかった。
目の前の椅子に理事長が座り、いつも通り向かい合う形になった。
「それで今日はどうしてここに?」
「はい、理事長に渡したいものがありまして」
僕はカバンから取り出して、それを理事長に差し出す。
理事長は困惑しながらも受け取ってくれた。
「これは?」
「理事長にもお世話になっているので、手作りのクッキーを作ってみました。よろしければどうぞ」
僕の言葉が終わると同時に理事長の声と後ろで立っている双葉さんの声がハモった。
「「手作り!?」
「え、はい。一応、作りました。まだ作ってそんなに経っていないので、そこまで冷めてもないと思います」
「…手作りのクッキー…?」
「はい、もしかして、お二人共手作りは嫌でしたか?」
僕はパティシエでもない素人なので、そんな奴の手作りはダメとかかな。人に寄っては他人というか、お店で売られているもの以外で身内以外が作ったものは食べられないという人もいたりするらしいし。
そんな思考を巡らせていると阿吽の呼吸かのように二つの声が重なりあう。
「「そんなことないです!嬉しいに決まってる!」」
「そ、そうですか。それはよかったです」
さすがに受け取ってもらえないと寂しいので、受け取ってもらえただけでも嬉しい。これがもし、好評だったら次はそれぞれに好きなお菓子を聞いて、作ってみるのもいいかもしれない。
そんなことを思いつつ、僕はクッキーを配り続けるのであった。




