帰り道
双葉さんは僕が大学に行く時、必ず迎えに来てくれる。
女性区域の大学なので迎えに来てくださるのは本当にありがたいものの、さすがに双葉さんの個人の時間まで占有しているんじゃないかと心配になる。
――――――
いつもの如く、車で大学から自宅への帰り道の道中。隣には双葉さんがいて、無言で僕のことをずっと見ている。
「あの双葉さんって…退屈じゃないですか?」
「なにがですか?」
「いや、僕が大学にいる時はずっと僕の側で支えてくれますよね」
「それが自分の責務ですから」
「でも、双葉さんだって学生なわけですし。他の方に変わってもらっても大丈夫ですよ」
これから双葉さんは仕事に就くことになる。
学生で居られる時間はあんまりないと思うし、そんな貴重な時間を僕のボディーガードみたいな役目で消費させてしまうのはとても申し訳ない。
「自分の心配はしないでください。自分は葉山様の近くに居られるだけでいいんです。それがこの世で一番価値のある時間の使い方なのですから」
僕って双葉さんの命を救ったりしたかな。そうでもしないとここまでの崇拝みたいな気持ちを芽生えさせるなんて無理だと思う。でも、僕にはそんな大それたことをしたような記憶は全くと言っていいほどない。
さすがにそんなすごいことをしたのなら記憶に残っていないなんてことはないと思う。
「…双葉さんがそういう風に言ってくれるのは本当にありがたいけど…」
そこで双葉さんが纏っている雰囲気みたいなものが急に変わった。さっきまで凛々しい感じだったのに。
「…自分って迷惑ですか?」
「迷惑じゃないですよ。ただ僕が双葉さんの時間を占有してしまうのは申し訳ないと感じたので」
僕は双葉さんを落ち込ませるためにこんなことを言ったわけじゃない。少しでも双葉さんが負担に感じているなら、それを軽くする手伝いをしようと思っただけ。
「…本当にそう思っていますか。自分のことだから迷惑で追い出そうとしているわけじゃないんですか?」
「そんなわけないですよ。僕は双葉さんのような素晴らしい方がいつも近くに居てくださることに感謝しているんです」
「……本当?」
「本当ですよ。双葉さんがボディガードとして側に居てくださるだけで僕は女性区域の中でも落ち着いて過ごせるんです」
このまま、言葉で口にしても双葉さんは疑うかもしれないので、行動にうつすことにした。
隣に座っている双葉さんの手を優しく握る。これが正解なのかは分からないけど、このまま双葉さんを落ち込ませるよりはいいはず。
「僕は本当に双葉さんで良かったんです。少しでもその気持ちが双葉さんに伝わったら嬉しいです」
双葉さんの表情を確認するとそこには顔をリンゴのように赤く染めて、視点も固定されていた。双葉さんの顔の前で片手を振ってもまるで反応を示されないので本当に固まってしまっているみたい。
こんな状況に陥ったこともないので、僕はどうしたらいいか分からず、しばらく眺めていた。
数分して急に双葉さんの視点がやっと動いて、僕の方に向いた。
「大丈夫ですか?」
「え……むりぃかも…」
すると双葉さんは急に力が抜けたように僕の方に寄り掛かって来た。
「ど、どうされたんですか?」
僕の呼びかけに対して双葉さんは何一つ反応してくれなかった。
それから家に着くまで双葉さんはずっと反応してくれなかったけど、無理に揺さぶったりして起こすのも悪いので静かに起きるのを待つことにした。
なので、最終的に僕は家に着いていながらも3時間ぐらい車の中にいたのだった。




