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懐の狭い短編集

香辛料の包

 配送センターの裏口、鼻の付け根のデカい連中が階段の低いところでたむろしている。どいつもこいつも、その鼻の盛り上がった形状で奥にある目が隠れるので、少しでも斜めの位置関係で人と話すことになるとお互い、壁越しに覗き合っているみたいな迫力を帯びてしまう。いつだって好戦的なコミュニケーションに陥りやすかった。この裏口の階段に集まっているのはそういった不調和から逃れ、同一の悩みを打ち明けることなく察し合える、容姿の仲間であり、くわえられたタバコはどれも美味そうだった。ニーズのない話で空いた間を埋める必要のない関係性は健やかで、空間には支配されず、真に人間が空間を支配できる。彼らにとって、この配送センターに勤務することになったのは天からのささやかな贈り物だった。今日の昼飯は近くの中華でと決まっていた。一人が最後にタバコを吸い終えると多少の声を交わし合い、不愛想な足並みは中華料理屋の面した街路の方へと向かう。

 食欲を誘うなんてくらいでは生易しいまでの爆発的な香りで、予定よりも1品多く頼んでしまうのが中華料理というものだ。これは鼻のデカい連中の場合でも同じだった。頬の内から溢れてくるよだれを溜めながら、メモを持って来た、切れ長の目をした丸眼鏡の女の子と鼻の壁越しにそれぞれメニューを頼んでいく。店員は終始にこやかに応対すると、その場にエプロンの柔らかい印象を残してテーブルを去っていった。

 料理を待つまでのあいだは、世界野球やスマホゲーの話題になったりもしたが、何となく黙ってテレビを見ている時間の方が多かった。コマーシャルが歌をうたったりダジャレを言ったりして大金が飛び交っている。ドア枠の開いた向こうに覗ける調理場では、色んな器具がぶつかったり油が熱されたりする音も飛び交っていた。

 そのうち注文のときと同じ店員が両手におぼんを持って現れて、思ったよりも高い声でメニュー名を言う。そうやって持っている分を素早くテーブルに置いてしまうと、続けてすぐに残りの分も運んできた。

「ごゆっくりどうぞー」

『美味え!』料理を口にしてみんな思ったが誰もあまり口には出さなかった。

 それと食後に店の横で吸うタバコ。最後に一人がタバコを吸い終えると、彼らはゆっくりした足取りで配送センターへ帰っていく。午後からの仕事は満腹で眠い人間にも務まる範囲で割り当てられるべきだし、実際ここの配送センターではそうだ。

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