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黒猫は甘い吐息に包まれたい  作者: くどりん
ノーマルシリーズ
5/11

吐息その5『お酒の力』

「いたたた……」

 リビングで寛いでいると、腕を擦りながらといきが配信部屋から出てくるのが見えたので、労いの言葉を掛けてあげることにする。

「お疲れ様~、今日も盛大に喰らったみたいだねぇ」

 といきが痛がっている理由は、配信中に投げられたギフトに連動して電流を受けてしまっているからである。

 ――身体張るなぁ……

 同じ配信者として尊敬と憐憫が入り混じった感情が声音に顕れていたようで、といきが恨めしそうに睨みつけてくる。

「ねぴもやってみたらどう? この痛みを共有し――」

「絶対嫌」

 食い気味に拒否すると、頬を子供っぽく膨らませていたので、その様子が可笑しくて自然と笑い声を上げてしまう。といきの視線が刺さっていたが、気にすることなく一頻り笑ったら、手にしていたものを呷り喉を潤していく。

「って、昼間からお酒飲んでるの?」

 といきが呆れたとでも言わんばかりの声を投げつけてくるが、こちらの今日の予定は既に消化し終えているので、自由な時間を満喫しているだけなのである。確かといきもこの後は予定がなかったはずであることを思い出して、

「といもどう?」

「え~……」

「美味しいおつまみもあるよ~」

「じゃあ、ちょっとだけ……」

「1名様ごあんな~い」

 いとも簡単に陥落したといきが冷蔵庫から飲み物を選んできたので、隣に招いてあげる。

 軽快なプルタブの音を響かせた後、

『かんぱ~い!』

 お互いの缶を打ち合わせて、体内に流し込んでいく。

 先に飲み始めていたこちらは少しの量で口を離したが、といきは一気にほとんどを飲み干してしまい、

「ホンッ――ト、あいつらさ~」

 一瞬で出来上がった彼女は、容赦なくビリビリギフトを投げてくるリスター達に対しての愚痴をこぼし始める。

「見てよこれ! こんな真っ赤になるまで投げ続けてくるんだよ? ちょっとは加減ってものをさぁ」

 そう言って見せてきた手首は真っ赤に腫れており、元の色白の肌とのコントラストが、より一層痛々しく感じさせていた。

「うわっ、痛そう……」

「滅茶苦茶痛いよぉ……ねぴぃ、慰めて~」

「んん!?」

 酔いが回っているせいなのか、甘くて蕩けるような声で、思いがけないことを言い出してくる。あまりのことに咽そうになるのをどうにか耐える。

 ――甘えん坊になってる!?

 今までにも一緒にお酒を飲む場面はあったが、こんな様相の彼女を見るのは初めてだった。

「え~っと……じゃあ、痛いの痛いの飛んでいけ~、なんて」

 とりあえずといきの要望に応えようと思い、腫れた手首を撫でてみるが、どうやらそれは求めていたものではなかったらしく、

「流石に子供扱いし過ぎじゃない……?」

 ならどうしたらと頭を悩ませるが、こちらもアルコールのせいで思考が上手く働いてくれなかった。

 慰める。子供扱いしない。大人な慰め方……?

 考えれば考えるほど、思考がぐちゃぐちゃになっていくのを感じる。

 とにかく、何かしてあげないとという思いだけが浮き上がってきて、辿り着いた答えは――

「じゃあ…………れろ」

 といきの腕を掴み、手首へと舌を這わしていく。

 唾液に濡れた箇所が艶めかしく見え、こちらの意識を麻痺させていく。

 下に感じるといきの肌の滑らかさに魅了され、無心でその行為を繰り返していく。

「ちょっと、くすぐったいって……ぅ、んっ……」

「――!?」

 といきの口から漏れた艶っぽい声が脳髄に届いた瞬間、まるで催眠が解けたかのように意識が鮮明になっていく。

「ごめん……悪ノリし過ぎた……」

「こ、こっちこそ……ごめんね」

 気まずい空気が充満してしまい、どうしたものかと動揺に心が乱されていると、

「そ、そういえば、まだやっておきたいことがあるんだった!」

 といきが立ち上がり、明後日の方向に視線を泳がせながら、そう言ってきた。

「あ、あぁ~、そう言われてみれば、私も用事が残ってたの忘れてた!」

 お互い苦しい言い訳だと分かっていたが、この場の空気に耐えかねていたので、離脱する理由については特にツッコミを入れることなく、それぞれの配信兼作業部屋へと撤退するのだった。



 背後で扉を閉めた直後、力なく蹲り、先程の自分の行動を省みて頭を抱える。

 ――流石に踏み込み過ぎたかもしれない……

 お酒の勢いがあったとはいえ、軽率な行動をとってしまったと反省する。

 向こうも向こうで、気まずそうな表情を浮かべていたので、今後彼女にどう接すれ良いのか分からなくなるが、

 ――お酒のせいにしちゃえば……

 そうすれば、一応の体裁は取り繕えるだろうと思う。

 だが、踏み込んだことで、今の関係性にプラスの変化が訪れるのではないかと期待している自分がいるので、少し勿体無いような気がしないでもない。

 願わくば、こちらの気持ちを少しでも察してくれたならと思うが、今までのことを思えばあまり期待しすぎるのは良くないが、それでもこの胸の内に燻っている気持ちに――

「早く気付いてよね――」











「――ねぴのバカ」

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