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黒猫は甘い吐息に包まれたい  作者: くどりん
ノーマルシリーズ
3/11

吐息その3『カレーなヤキモチ?』

「も~、いい加減機嫌なおしたら?」

「別に、怒ってないですけど……」

 リビングの二人掛けソファを占領しているといきが抱えたクッションから不機嫌そうな視線を寄越してきている。クッションに口元を押し付けているせいでくぐもった声が、地の底から響いてくる怨嗟のように聞こえていたたまれなくなってくる。

 事の発端はつい昨日の、かねてより付き合いのある配信者であるりんちゃんとのオフコラボが彼女の不機嫌の原因であるのは間違いないだろう。

 といきが配信部屋に(こも)ってどうしても消化しないといけない作業に打ち込んでいた傍らで、こちらはりんちゃんと仲良く料理を作って、食卓を囲っていたのである。

 といきもといきで先日の大型コラボ企画の際にりんとは仲良くなっていたので、

 ――除け者にされたと思ってるんだろうな……

 求めていた反応とは違うということもあるが、自身のせいでいつまでも機嫌を損ねられていては座りが悪い。

「ほら、ご飯の準備出来たから、食べよ?」

「…………」

 お皿によそったカレーをといきの眼前にあるローテーブルに置いて促すが、といきはそれをじっと眺めているだけで、相変わらず態度を軟化させてはくれなかった。

 ――まぁ、それもそっか……

 このカレーは昨晩りんちゃんと共に作ったものなので、といきにとってそれは複雑な感情を引き起こす代物でしかないだろう。だが、

「りんちゃんがさ」

「え……?」

 親しくなった友人の名を聞かされたせいか、といきがゆっくりと沈んでいた表情を上向けてきた。

「頑張ってるといにも食べてもらおうって、多めに作ってたんだけどな~」

 我ながら卑怯な物言いだと思うが、りんがそのように提案してくれたのは事実である。

 友人からの思いやりを流石に無下には出来ないようで、といきがようやくスプーンを手にするが、

「…………」

「どしたの?」

 口元へと運んでいた手を途中で静止させ、じっとこちらを見つめてくる。その視線は先程までの険があるものとは違い、何かを躊躇っているかのような不安がちらついているように見えた。

「ん」

 短く喉を震わせたといきが、スプーンの柄をこちらに差し向けてきかと思うと、ひきむすんでいた唇を遠慮がちに開けて、こちらの反応を伺っているようだった。

 ――こ、これは――!

 彼女が意図することは一目瞭然である。昨日もりんとお互いに食べさせあっていたので、自身の勘違いということはないだろう。

 恐らくお手洗いに行く際にでもリビングの様子を見てしまったのだろう。

 盛り上がっていただけでなく、といきもといきでこちらの邪魔にならないよう、足音を忍ばせていたのだろう。

 ――不覚……いや、これはチャンスでは――!?

 きっとといきは仲の良い友達なら食べさせあいぐらいなんてことはないコミュニケーションの一つとでも思っているのだろう。だから、自分達も仲が良いのだと証明して欲しくて、『あーん』を要求してきているのだろう。

 ――ギフトに設定していて良かった……!

 流石に仲が良くても素面で友人に『あーん』をするのは抵抗感が勝るが、相手が想い人であればその限りではない。

 思わぬ役得に固唾を呑むが、動揺を見せてしまえば、といきが自分との友情が浅いものだと勘違いしてしまい、余計に機嫌を損ねてしまうだろう。

「しょうがないなぁ……ほら」

 だからと、自分に言い聞かせるようにスプーンを受け取り、といきの口に近付けていく。

「あーん」

「あー……ん」

 差し出したスプーンが咥えられ、タイミングを見て引き抜くと、といきが咀嚼する口を隠すように掌で覆い、

「おいし」

 短く感想を述べて、満面の笑みを浮かべたのだった。

 目を輝かせて破顔するのを見て、こちらまで口元が綻ぶのが分かる。

「おかわり、いる?」

「いる!」

 さっきまでの不機嫌などすっかり忘れたようで、といきが再び口を開けて、こちらからの供給を待ち構えている。

 雛鳥への餌付けみたいだな、と思いつつも今はこれで良いと思い直して、この時間を楽しむことにするのだった。

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