吐息EXその2『画面越しの嫉妬』
『ありがと〜! ん〜〜、ちゅっ!』
画面の向こうから、愛しい彼女が投げキッスをしている様子が聞こえてきて、胸の奥がモヤモヤしてくるのを感じる。
それがファンサービスであることは同じ配信者として理解はしているが、彼女のそれはお助けのギフトを投げてもらっては何度も繰り返されていたので、
ーーふーーーーん……
自然と、眉間に皺が寄るのが分かる。
こんなことで嫉妬するなんて、と自分の器の狭さに嫌気を覚えるが、こういった感情というものは理性でどうこう出来るものではないのだと、身をもって理解した。
《誰にでもそんなことするんだ》
苛立ちに任せて、ついついそんなコメントを送ってしまう。
それに対してすぐにといきからは、
『ねぴんが一番だよ』
『ディープなのはねぴんにしかしないよ?』
などと調子の良いことを言って、リスナーを沸かせている。
想いを通じ合わせてから、匂わせの頻度が高くなっているが、そうやってアピールしてくれることは正直嬉しい。
周囲にバレるのは流石にどうかと思うので、あくまでそういう設定で、というのが基本スタンスではあるが……
ーーちょっと気が緩んでるよね……
リスナーの反応が良いからと調子に乗っていると、決定的なやらかしをしないかと不安になってくる。
あまりやりたくはないが、彼女を諌める意味でもスマホの画面をタップして、あるギフトを選択する。
『いたたたた!? ちょ、なんで!?』
手にした画面からは盛大に、そして壁越しから微かに彼女の悲鳴が聞こえてくる。
「ちょっとは頭を冷やしなよね」
そう呟き、腹いせを兼ねて同じギフトを二度三度と送り、溜飲を下げさせてもらうとしよう。
◆
「ちょっと、ねぴん!!?」
彼女の配信が終わった直後、防音の部屋にまで聞こえる足跡が響いてきたかと思った直後、ノックもなしに勢いよく室内に突撃してくる。
「……お疲れ〜」
作業用の椅子にもたれながら、息を荒くしたといきを出迎える。
ただ、その声は自分で思っている以上に刺々しくなっていた。
「さっきのアレ、何なの? めっちゃ痛かったんだけど!?」
そう言って袖を捲って、電流を受けて赤くなっている腕を掲げてくる。
その痛みを理解しているが、今はいい気味としか思わなかった。
ビリビリギフトを投げた後も調子を変えず、盛大に投げキッスを振り撒いていたので、こちらの溜飲は下がるどころかより一層醜い感情を堆積させてしまっていた。
「もしかして、嫉妬してる?」
「…………悪い?」
ようやくこちらの思いに至ったといきに、口を尖らせて内心を吐露する。
リスナーを大切にしている彼女を知っているから、あのファンサービスに嫉妬をするべきではないとは思っているが、
ーー仕方ないじゃん……
それだけ彼女が大好きだから、別の人に目を向けていることに嫉妬してしまう。
でも、リスナーを蔑ろにするような人になって欲しくない。
二律背反の気持ちで頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「はぁ〜……」
「と、とい?」
といきが盛大に溜め息をつくので、嫌な予感が頭を過ぎる。
こんな嫉妬深い人間に、嫌気が差したのでは、と不安が一気に押し寄せてくる。
だが、
「行くよ」
といきが近寄ってきて、こちらの腕を引く。
勢いのまま立ち上がらされ、そのまま彼女に連れられていく。
「えっ……な、なに?」
訳が分からず狼狽えていると、着いたのは二人の寝室であった。
勢い良く開け放たれた扉をくぐり、といきがこちらを引き寄せたかと思うと、
「きゃっ」
抱き止められるかと思ったが、そうではなかった。
腕を振られ、ベッドに投げ出される。
横たわるこちらを見下ろしながら、といきが着ている服を脱ぎ始める。
「ど、どうしたの?」
訊ね、本心ではこれから何が起こるのかはほぼ理解しているが、期待を込めて聞かずにはいられなかった。
下着姿になり、綺麗な肌を晒すといきは、まるで芸術品のようであった。
釘付けとなった視線が、艶かしく歪む口元を捉える。
「私の一番が誰なのかってしっかり教えてあげないと、ね」
言うが早いか、といきがこちらに覆い被さり、
「ん」
桜色の唇がこちらのそれと重ね合わせられる。
それに合わせて、服の中を弄られて、脳に電流が走ったかのような快感に襲われる。
更には、肉厚の下がこちらの唇をこじ開けてきて、口内を蹂躙してくる。
「ん……ちゅ…………」
「と、とい……ぅ、んっ」
息つく間もなく、繰り返されるそれが全身を蕩けさせていく。
ようやく、解放されたかと思うと、二人の唇を繋ぐように唾液の粘性で糸が引かれており、それがまた脳を痺れさせる。
いつの間にシャツが捲られていた。
といきがこちらを慈しむように眺めながら、
「とりあえず……さっきの仕返しとして、いっぱい啼いてもらうからーー覚悟してね?」
「お、お手柔らかに」
どうにか懇願するが、それは受け入れてもらえず、精魂尽き果てた頃にようやく解放されたのだが、外は真っ暗で夜が更けた後だった。